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 Date with mistress Megumi
Curtain-Call
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 サァーッ
 きらめき市ににわか雨が降り注いでいました。
「いやな雨ねぇ」
 スーパーマーケットの軒先で雨宿りしながら、魅羅さんはため息を付きました。
 その腕には買い物籠をさげて、一見若奥さん風に見えますね。
「早く帰らないと、みんなおなか減らして待ってるのに」
 そう呟いて、雨空を見上げます。
 雲の動きはかなり早く、この雨が通り雨であることがわかります。
 と、いきなり目の前で激しいブレーキ音が響きました。
 キキィーッ


 めぐみちゃんとでぇと カーテンコール
  第八話 「お祭り、ねぇ」



「何?」
 びっくりして、魅羅さんは視線をそちらに向けました。
 道路の真ん中に、一人の女性が立っています。その直前に停まっているタクシーが、どうやらブレーキ音をたてた車のようですね。
 運転手が窓を開けて怒鳴っています。
「ばっきゃろー! なにぼーっと突っ立ってるんだよ!」
 魅羅さんは首を傾げました。そして、はっとします。
「まさか、伊集院さん?」
 少し考えて、魅羅さんは買い物籠をその場に置きました。そしてつかつかと近寄ります。
 折しも運転手は、車から降りてきてその女性につかみかかろうとしています。
 魅羅さんはずかずかと近寄りました。
「おやめなさい」
「え?」
 運転手が魅羅さんを見たとき、そこには心優しいお姉さんではなく、きらめき高校を闊歩していた女王様が立っていました。
「殿方が騒ぐのはみっともなくてよ」
 魅羅さんはそう言うと、女の人を歩道側に引っ張り寄せます。そして、すっかり気を呑まれてしまっている運転手に、さらにぴしっと言い渡しました。
「さっさとお行きなさい」
「は、はい」
 運転手は、弾かれたみたいにタクシーに飛び乗ると、急発進させました。
 走り去る車を見送ってから、魅羅さんはほっとため息を付くと、女の人を見ました。
「伊集院さん、どうなさったの?」
「……あ。鏡、さん?」
 レイさんは、ぼんやりと魅羅さんを見ました。どう見ても尋常ではない様子ですね。
 カコン、カコン、カコン、カコン
 リズミカルな音が、ホテルのロビーにこだましています。
「これで、決めだぜ!」
 カコォン
「きゃっ」
 望ちゃんの放ったスマッシュが、詩織ちゃんのラケットをかすめて、後ろに落ちました。
「15対12で、清川さんの勝ち!」
 真ん中で審判をしていた沙希ちゃんが、ぱっと手を挙げました。
 詩織ちゃんは、髪をかき上げて苦笑しました。
「やっぱり、清川さんってスポーツ万能ね」
「まぁね」
 にこっと笑ってVサインをする望ちゃん。
 もう、おわかりですね。そう、温泉から上がって、みんなは卓球をしているんです。
 温泉と言えば、やっぱり卓球ですよね。
「バスケットなら負けないんだけどな。ピンポン玉じゃ小さすぎるんだもの」
 ちょっと悔しそうに負け惜しみを言うと、詩織ちゃんは卓球台にラケットを置きました。
「そうかい? それを言ったら、あたしの専門は球技じゃないんだけどな」
 そう言いながら笑う望ちゃん。ぽんと自分のラケットを叩いて尋ねます。
「さ、次は誰だい?」
 しーん。
 誰も前に出ません。望ちゃんは苦笑します。
「ま、しょうがないか。それじゃ、あたしの代わりに誰か……」
 と、どこからともなくあやしげな笑い声が聞こえてきました。
「ひゅーほほほほほほ」
「だ、誰?」
 みんな、一斉にホテルの入り口の方に視線を向けました。
 そこには、小柄なポニーテイルの女の子が、腰に手を当てて望ちゃんを睨み付けています。
「詩織先輩を破ったくらいでいい気にならないでほしいれすね! ふしょー、この早乙女優美、現バスケ部キャプテンとして、前キャプテンの藤崎先輩の仇はとりますっ!!」
「優美ちゃん!」
「どうしてここに!?」
 みんなが驚きの声を上げる中、優美ちゃんはすたたたっと走ってくると、卓球台の前で詩織ちゃんが置いたラケットを握りました。
「清川先輩! 勝負れす!」
 望ちゃんもラケットを握ります。
「手加減はしないよ、優美ちゃん」
「望むところれす!!」
 優美ちゃんの目が燃えているのを見て、詩織ちゃんは優美ちゃんにわけを聞くのはとりあえず勝負が付いてからにすることにして、観客に回るのでした。
「優美ちゃん、バスケ部の名誉はあなたにかかってるんですからね! 負けちゃったら、奈津江ちゃんに言いつけちゃうから」
「はっくしゅん!」
 大きなくしゃみをして、奈津江ちゃんは鼻をこすりました。
「おかしいわねぇ。誰かが噂してるのかしら?」
「奈津江ちゃん」
 低い声に、奈津江ちゃんははっと我に返って、正面を見ました。
「ご、ごめん、恵」
「タロットが全部ひっくり返っちゃったよ。もう」
 恵ちゃんはそう言いながら、手元の一枚をひっくり返して表情を曇らせました。
「どうしたの?」
 その表情の変化に気付いて、訊ねる奈津江ちゃん。 「……不吉だわ」
 恵ちゃんはそう言うと、そのカードを奈津江ちゃんに見せました。
「……『死に神の13番』」
 こぽこぽこぽ
 魅羅さんは、急須からお茶を湯飲みに注ぐと、レイさんに渡しました。
「どうぞ」
「ありがとう」
 そう答えると、レイさんは上品にお茶を飲みました。
 そんな二人の様子を、居間から追い出された鏡家の6人の弟たちは、ドアの前に鈴なりになって伺っていました。
 鏡くんが呟きます。
「それにしても、すげぇ美人だなぁ」
「姉ちゃんには負けるけどね」
 と削くん。
「いや、俺はあっちの方が好みだなぁ」
「ほー、姉ちゃんに言ってやろーっと」
「あ、この、明!」
 と、いきなりガチャリとドアが開きました。
「こらぁ!」
「うわぁー、逃げろー」
 バタバタバタ 一斉に散っていく弟たちを見送って、魅羅さんは苦笑しました。
「本当にしょうのない子たちね」
「あの、鏡さん」
 レイさんが、魅羅さんに声をかけました。
「え?」
 魅羅さんが振り返ると、レイさんは湯飲みを置いて訊ねました。
「聞かないのですか?」
「貴女が話したくないなら、私は聞きませんわ。でも、話したいのなら、聞き役くらいはしてさしあげてよ」
 そういうと、魅羅さんは微笑みました。
 レイさんは、そんな魅羅さんをまぶしげに見ました。
「鏡さん、卒業して変わりましたね」
「貴女ほどじゃないけれどね」
 そう言って、魅羅さんはレイさんの正面に座り直しました。
「卒業して、親衛隊の皆さんともお別れして、やっと自分に戻ったような気がするのよね。今にして思えば、きらめき高校での3年間はなんだったのかしらって考えてしまうわ」
 魅羅さんは、ほっとため息をつきました。
「まぁ、まだ振り返ってあれこれ考えるほど遠い昔のことでもないけれどね。でも、ちょっと考えちゃうわね」
 その頃。
 見晴ちゃんを除いた館林3姉妹は、駐車場に止めておいた“たてばー号”に乗り込んでいました。
 晴海さんが千晴ちゃんに訊ねます。
「本当に?」
「うん。もうすぐそこまで来てるよ」
 千晴ちゃんは答えました。
 晴海さんは、ハンドルに寄りかかって、額を押さえました。
「まさか、ねぇ。よりによって今来るとは思わなかったわ」
「予定よりもずいぶん早いじゃない」
 助手席の美鈴ちゃんも腕を組みます。
 美鈴ちゃんの後ろの座席に座ってる千晴ちゃんは、そこからも見えるホテルの方を見ました。
「私はいいけど、見晴姉ぇ、どうするのかな?」
「一番肩入れしてるの、あの娘だからね」
 晴海さんは苦笑しました。そして、運転席のシートを倒して寝そべりながら、呟きました。
「あいつら、先走りしなきゃいいけどね」
「先走り?」
 聞き返す千晴ちゃんに、晴海さんは指を立てました。
「見晴が行かないなんて言い出したとしたら、あいつらどうすると思う?」
「見晴姉ぇが行かないっていう理由を捜すよね、きっと……。って」
 美鈴ちゃんは、はっとしました。
「まさか!?」
「その、まさかよ」
 そう言うと、晴海さんは身を起こしました。
「さて、それじゃそろそろ準備しようかな」
「準備?」
 聞き返す千晴ちゃんに、晴海さんは妖しい笑みを浮かべて頷きました。
「そ。準備よ。お祭りのね」
「お祭り、ねぇ」
 美鈴ちゃんは肩をすくめました。
「お祭りどころじゃすまないような気がするんだけどな。あの人たちを相手にしなくちゃいけないんだから」

《続く》

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