喫茶店『Mute』へ
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次回へ続く
ど・う・し・よ・う……。
「おっはよぉーっ!!」
月曜日。
あたしは、どよーんとした顔で、道を歩いてた。
主人くん、怒ってるだろうなぁ。
あたし、どんな顔して謝ったらいいんだろ。
許してくれなかったらどうすればいいの?
ドン
いきなり、後ろから突き飛ばされて、あたしはそのまま盛大にスライディングしちゃった。
「わぁーっ! どうしたの、沙希っ! 傷は浅いぞ、しっかりしろぉ」
「ひ、ひなちゃん……」
あたしは振り向いた。
あの時ひなちゃんがちゃんと家にいてくれれば……。
そんなあたしの思いを知るはずもないひなちゃん、あたしの顔を見るなり大笑いし始めたの。
「な、なに、沙希の顔。きゃははは」
「なによぉ」
「だって、あははは」
あたし、さすがにむかっとした。
「なによ! そんなに笑うことないじゃない!」
「へ?」
ひなちゃん、呆気にとられた顔した。
あたしは、立ち上がると叫んだ。
「だっ、第一、昨日どうして家にいなかったのよ! あたし、電話したのに、いなかったじゃないの!」
「あによ、それ」
ひなちゃんの眉がつり上がった。
でも、あたしももう止められなかったの。
「毎日毎日ちゃらちゃら遊び回ってる暇があるんなら、勉強でもしなさいよっ」
「なっ……」
みるみる、ひなちゃんの顔が真っ赤になった。
「……そっか。わかったわよ」
一瞬間をおいて、妙に静かにひなちゃんは言った。
「沙希とは、長い付き合いだったから、わかってくれてるって思ってたけど、やっぱ沙希も他の人とおんなじだったんだね」
あたし……、何を言ったの?
「よっくわかったよ!」
そのまま、ひなちゃんはくるっと振り向いて、走って行っちゃった。
あたしは……。その場に呆然と立ち尽くしてた。
蝉の声が、やかましいくらいに響いてる。
今日も、思いきり暑くなりそうだった……。
『あ、ごめんね、公くん、呼んでくるわね。公く〜ん! 虹野さんからお電話よ!』
『そんなに笑うなよ、詩織』
あたし、その場に立ち尽くしてた。
笑いあう二人が、陽炎の彼方に消え去っても。
ずっと、ずっと……。
《続く》