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ときめきメモリアル Serial Story

沙希ちゃんの独り言 第123話
沙希ちゃんのハッピーハッピーバースディ2

「……ええと、あたし帰ってもいい?」
「What's say! なに言ってるのよ。今日の主役がいないでどうしますか〜?」
「彩ちゃん、なんかしばらく見ないうちに口調変わったみたいな気がするんだけど……」
「気のせいよ、気のせい。さ、Enter the door!」
 背中を押されて、あたしは極彩色に塗られた『Mute』のドアを開けた。
 途端に、目の前で何か爆発した。
 ボン! ボボン!!
「きゃぁっ!」
 思わずその場に尻餅をつくあたしに頭に、紙テープがヒラヒラとかかって、みんなの声が聞こえた。
「ハッピーバースデー!!」
 そう、今日はあたしの17歳の誕生日……なの。

「というわけで、このたびめでたく沙希も17歳になったってことで〜」
 ひなちゃんがマイクを握って、高らかに宣言した。
「ここで一曲聞いてくださいっ!」
 スパーーン
 いきなり後ろからハリセンでどつかれるひなちゃん。
「あいったぁぁぁ。な、なによぉ」
「夕子ちゃんの誕生日じゃないんだから」
 ぽんぽんと片手でハリセンを叩きながら、舞姉さんがにっこり。ううっ、美人にハリセンって絵になるみたいなならないみたいな……。
「ワォ、ファンタスティックジャパニーズハリセン!」
 彩ちゃん、手を叩いて喜んでるし。
「あ〜、超痛かったぁ」
 あ、ひなちゃん復活。
「だいたい、こういう身体張ったギャグはヨッシーの領分でしょ? ヨッシーはどしたん?」
「さぁ……」
 あたしに聞かれても……。早乙女くんならひなちゃんの方が詳しいんじゃないの?
「ま、いっか、ヨッシーなんてどうでも」
 そう言うと、ひなちゃんは『Mute』の店内に集まってくれたみんなをぐるっと見回した。
「それじゃ、ジュースは手元に行き届いたかな? それじゃ、そこにいる虹野沙希の誕生日を祝しましてぇ〜、乾杯っ!」
「かんぱーい!!」
 みんながジュースを飲んで、拍手してくれたの。
「おめでとう!」
「おめでとーっ!」
「あ、ありがとう、みんな……」
 そこに、マスターが大きなケーキを抱えて奧から出てきたの。
「お待たせ! 喫茶店『Mute』特製、ジャンボバースデーケーキだぞ」
「わ、超おっきーじゃん。かっちゃん、どうしたの、これ?」
 ひなちゃんがびっくりしてマスターに聞き返すくらいの大きさ。あたしも、ちょっとびっくり。こんなのオーブンに入りきらないよね、どう見ても……。
 あ、そうか。
「分割して焼いたのをくっつけたんだ……」
「さすが虹野さん。あっという間にばれたな」
 苦笑するマスター。
「こんだけ人数がいるとなると、どうせケーキ一つじゃ全然足りないだろうし、どうせいくつも焼くなら、って思ってね。あ、そうそう。ちゃんとろうそくも17本立てといたから」
「克美さん、間違って18本立てようとしたんですよね」
「あっ、舞くん、それは言わないって……!」
「かっちゃん、それは沙希に失礼じゃない。罰として今日の費用はかっちゃん持ちね」
 ひなちゃんがここぞとばかりにマイク片手に言い放つ。慌てて手をふるマスター。
「勘弁してくれ〜、そんなことしたら、グッピーのえさが買えないじゃないか〜」
 一拍置いて、お店の中が笑いに包まれたところで、タイミングよくドアが開いたの。
「お待たせ〜。ごめんごめん、職員会議が長引いて」
 晴海先生がドアを開けてそう言うあいだに、その隙間からちょろっと葉澄ちゃんが滑り込んできたの。そのままあたしに飛びついてくる。
「きゃぁ!」
「お姉さまっ! お誕生日おめでとうございますっ!!」
「は、葉澄ちゃん。あ、ありがと……。だから、ちょっとどいて……」
「あたし、この日はやっぱり国民の祝日にして日本国民全員でお祝いするべきだと思いますっ!!」
「そ、そんな無茶な……。それはいいから、どいて……」
「こらぁ、この変態中学生っ! 虹野先輩が困ってるじゃないのっ!!」
 みのりちゃんがあたしから葉澄ちゃんを引き剥がす。
「なにすんのよ、みのりっ!!」
「それはこっちのセリフっ!!」
「うーっ」
「ふかーーっ」
 一難去ってまた一難……。とほほ……。
 あたしががっくりきてると、晴海先生の後ろから顔を出した見晴ちゃんが、店内をぐるぐる見回した後であたしに訊ねる。
「にじの〜、主人くんは来てないの?」
「あ、うん。今日サッカー部はミーティングがあるから、それが終わってから来るって」
 今日は土曜日。そして明日はひびきの高校との練習試合なのよね。だから本当はあたしやみのりちゃんも出ないといけなかったんだけど、瑠美ちゃんが「私がやっておきますから、主役は先に行っていてくださいね。あ、秋野さんも一緒に行っていて大丈夫ですよ」って言ってくれたの。
 あとで瑠美ちゃんにはお礼しなくちゃね。
「なんだ、そうだったんだ。せっかく主人くんが来てるからと思ってお洒落してきたのに〜」
 ぶつぶつ言いながら、見晴ちゃんは髪留めをいじり始めちゃった。……何しに来たのよ、もう。
「まぁまぁ、そこの2人も落ち着きなさいな」
 晴海先生はそう言うと、あたしにすっと頭を下げた。
「ともかく、お誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
 あたしがお礼を言うと、先生はふっとため息をついた。
「でも、いまのうちよ。誕生日がおめでたいのは。ねぇ、舞?」
「なんで私に振るのかしら?」
 ちょ、ちょっと、舞さん、その包丁は怖いよっ。
「大体同じ学年でしょ、晴海と私は」
「でも舞の方が誕生日は早い……わかったからその包丁は止めなさいって。シャレにならないわよっ」
「そう?」
 舞さんは包丁をカウンターの中にしまってにこっと笑った。うーん。
 ひなちゃんがそれを見計らって、マイクを握ったの。
「それじゃここで恒例の、ろうそく消しをしていただきましょう。はい、まずは点火っ!」
「あ、私がやりますっ!」
「あたしがやるのっ! みのりは引っ込んでなさいっ!」
「なによっ、邪魔する気っ!?」
「うるさいわね、この役目はずっと前からあたしがする事に決まってるんだもん。ね、お姉さま?」
「虹野先輩、嘘ですよねっ!?」
「あ、えーと、あのぉ……」
 こ、困っちゃったな……。
 と、
 シュボッ
「ああーーーっっ!?」
「あら、どうかなさいましたでしょうか?」
 ろうそくにマッチで火を付けて、そのマッチの火をパタパタと扇いで消しながら、古式さんがにっこりと微笑んだ。
「だ、だって、火、火っ……」
「ああ、申し訳ありません。いつまでたってもつかないので、自分でつけてしまいました」
 笑顔のまま答える古式さん。
 みのりちゃんと葉澄ちゃんは、顔を見合わせて大きくため息。
 うーん、やっぱり大物なのよねぇ。
 と、ドアが開いて、江藤くんが顔を出した。
「ちわーっす。サッカー部一同、やって参りましたぁ!」
「わきゃっ!!」
 ジュースを飲んでいた見晴ちゃんが、その声に慌ててお店の奧に駆け込んで行っちゃった。……どうしたんだろ?
 あ、それより!
 あたしは振り返った。
「みんな、ありがと……」
「なに、虹野マネージャーの為なら、我らサッカー部一同、いつどこでもはせ参じる覚悟で……」
「江藤、ごちゃごちゃ言ってねぇでさっさと入れっ!」
「そうだ、こっちは寒いんだからなっ!!」
「いてっ、判ったから蹴るなっ!」
 どやどやっとサッカー部のみんながお店に入ってきて、最後に瑠美ちゃんがドアを閉めた。
「すみません、虹野先輩。遅れちゃって」
「いいのいいの。それより、ごめんね。今日のミーティング、瑠美ちゃんに任せちゃって」
「いいえ。私だってマネージャーですから」
 ……あれ?
 あたしは瑠美ちゃんに尋ねた。
「あの、主人くんは?」
「主人先輩ですか? ミーティングが終わった後で、早乙女先輩とどこかに行っちゃいましたけど……」
 瑠美ちゃんの言葉に、ひなちゃんが拳をぎゅっと握る。
「ヨッシーのバカ、肝心の公くんをどこに連れて行ったのよっ!」
「ひ、ひなちゃん?」
「あーもう、あの莫迦、ピッチも携帯も持ってないから連絡とれないし〜」
 頭を抱えてその場にしゃがみ込むひなちゃん。と、がばっと起き上がった。
「来ない人を待ってても、しょうがないっしょ。それじゃまずはプレゼント贈呈よっ!!」

 みんながそれぞれいろんなプレゼントをくれて、それはそれで嬉しいんだけど……、でもなんだろ、何かが物足りない……、そんな感じ。
 そんなあたしの気持ちをよそに、パーティーはひなちゃんの進行で滞りなく進んでいった。
「はい、それじゃ次いこ、次。沙希、さっさとろうそく消しなさいっ!」
「えっ? あ、うん、そうだね」
 ろうそく消さないと、ケーキカットも出来ないんだもんね。
 ふっと店内の照明が薄暗くなり、ひなちゃんが言う。
「それでは皆様、ここで恒例のろうそく消しと参りま〜す。彩子、彩子!」
「オッケイ」
 彩ちゃんがにこっと笑うと、すぅっと大きく息を吸って、歌い始めた。

 Happy birthday to you
 Happy birthday to you
 Happy birthday dear..... Saki!

 その時、バタンとドアが開いて、主人くんが顔を出した。その後ろから、早乙女くんも。
「ごめん、遅れてっ!」
「最後に主役、登場っ! てね」
「誰が主役よ、誰がっ!」
「それはもちろん、この俺、愛の伝道士こと早乙女好雄ぶっ!」
「バカ言ってんじゃないっ!」
 早乙女くんのお腹に肘打ちを決めて、ひなちゃんは彩ちゃんに声を掛けた。
「さ、彩子。続き、続き!」
 彩ちゃんは笑顔で頷いて、最後の一節を歌ってくれた。

 Happy birthday to you

 あたしは、思いっきりろうそくを吹き消した。
 わーっ!
 パチパチパチ
 歓声と拍手が上がる。
 さて、それじゃケーキを切って……。
「ケーキは私が切っておくから、虹野さんは、ね」
 舞さんがケーキナイフ片手にウィンクしてくれた。あたしは頷いて、主人くんに駆け寄った。
「主人くん……」
「あ、虹野さん。ごめん、遅れて」
「ううん。来てくれてよかった……」
 あたしが、そう言うと、主人くんは照れたみたいに頭を掻いた。
「いや、なんだ、その、まぁそういうことで」
「さて、ヨッシー。公くんをどこに連れ回してたのか、きりきり白状してもらうわよ〜」
 ひなちゃんが早乙女くんの後ろから首に腕を回して締め上げてる。
「わっ、止めろ朝日奈っ! チョークチョークっ! こ、公っ! お前からも説明しろっ!」
「あ、うん。俺が好雄に頼んだんだ」
「えっ? そうなの?」
 腕を弛めるひなちゃん。その腕から逃れて、早乙女くんはげほげほと咳き込んでる。
「あー、えらい目に遭った。いきなり何すんだよ、朝日奈っ」
「うるさいっ。大体ヨッシーの日頃の行いが悪いからよ」
「なんだよ、それ?」
「胸に手を当ててよっく考えて……って、誰の胸に手を伸ばしてるっ!!!」
 がこん
「ぐは……、あ、朝日奈……、お盆で殴るな……がく」
 そのまま倒れる早乙女くん。彩ちゃんが呆れたようにひなちゃんに言う。
「どうせぶっ飛ばすなら触らせてあげればいいのに」
「誰がよっ!!」
 ぷんっと横を向くひなちゃん。
 ほんと、相変わらずなんだから。

 パーティーが終わって、あたしは外に出た。
 熱気むんむんだった店内に比べて、外の寒さがかえって気持ち良いくらい。
「虹野さん」
 後ろから声を掛けられて、あたしは振り返った。
「あ、主人くん」
「ごめん、呼び止めて。まだ渡してなかったから」
 主人くんは、鞄から長細い包みを取り出した。そしてあたしに渡す。
「はい、これ」
「え?」
「誕生日のプレゼントだよ。気に入ってもらえると嬉しいけど」
 照れたように明後日の方を見ながら言う主人くん。
 あたしはその包みを受け取った。……軽い。なんだろ?
「……開けてみても、いいかな?」
「どうぞ」
 そう言われて、包装紙を解く。その中には長細い紙の箱。
 その箱を開けると、中には白い包丁が入っていた。
 ……白い包丁って、もしかして。
「これって、セラミックの包丁?」
「ああ。なかなか見つからなくて、好雄にも手伝ってもらって探し回ってたんだ。それで遅れて……。ごめん」
「……ううん」
 あたしは首を振った。
「ありがとう。嬉しい……」
 思わず包丁を抱きしめかけて、はっと気付く。そんなことしたら、大変な事になっちゃうから。
「それじゃ、早速今日から使わせてもらうねっ!」
 それが、あたしの、あたしなりのお礼だから。
 主人くんはにこっと笑った。
「それが目的だったりして」
「なんだぁ。……ふふっ」
「あははっ」
 あたし達は笑いながら、一緒の道を歩いていったの。

 こうして、あたしは17歳になりました。

TO BE CONTINUED...

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あとがき
 ちぃーっす。
 やっぱり、書けるときに書いておくというのが、正しいSS作家としてのあり方かなと思いまして(笑)

 沙希ちゃんの独り言 第123話 00/2/22 Up

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