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ときめきメモリアル Serial Story

沙希ちゃんの独り言 第124話
もうひとりの主人くん(前編)

 ピピピピッ、ピピピピッ
 アラームが鳴ってる……。
 あたしは、ごろんと寝返りを打って、目覚ましの頭をぽんと叩いた。それから、静かになった目覚ましを掴んで、時間を確かめる。
 7時。
 なんでぇ? 今日は日曜なのにぃ……。
 もう一度寝ようとしかけて、はっと思い出す。
 今日は、サッカー部の練習試合っ!!
 慌てて飛び起きると、あたしは寝間着代わりのスゥエットを脱いで、制服に着替え始めたの。

 たったった……た。
 はふぅ、やっぱり眠い。
 昨日のお誕生日の疲れが、まだ残ってるのかなぁ。
「あれ? 虹野さん」
 あくびしながら歩いていると、後ろから主人くんの声が聞こえたの。
「きゃんっ! お、おはよ……」
「おはよ。眠そうだね」
 はうー、見られてたぁ。
「あは、ちょっとね。それより、今日も頑張ろうね」
「ああ。相手はひびきの高校。油断は出来ない相手だしね」
 公くんはスポーツバッグを担ぎ直して、あたしに声を掛けてくれたの。
「それじゃ、行こう!」
「うんっ」

 学校から、バスに乗って30分くらい。川を渡ったお隣のひびきの市に、ひびきの高校はあるの。
 きらめき高校と同じく、文武両道で有名な私立高校。当然、サッカー部だってとっても強いのよね。
 それなのに……。
「うわ、可愛い娘〜」
「当然。ひびきのといえば美少女の多いこととスカート丈の短いことで有名じゃないか」
「そうだとも、我が同志よ!!」
「こら、前田! 江藤! 校門の前でバカやってるんじゃない」
 主人くんに言われて2人が首をすくめる。
「冗談だってば」
「そうそう」
「冗談には見えなかったぞ。ったく……。賀茂先生が来られなかったからって、たるんでんじゃないぞ」
「はぁーい」
 と。
「きらめき高校サッカー部の皆さんですね」
 ひびきの高校の制服を着た娘が声を掛けてきた。
 振り返って、主人くんは頷く。
「あ、はい。俺がきらめき高校サッカー部のキャプテンの主人です」
「お待ちしてました。皆さんの控え室はこちらにご用意させていただいてます。どうぞ」
 そう言って、身を翻すと、その娘はささっと歩いていきかけて、振り返ったの。
「どうかしました?」
「あ、いえ。みんな、行くぞ!」
「おうっ!」
 ……なんでみんな、そんなに気合い入れてるのよ。大丈夫かな……?

「マネージャーの皆さんはこちらにどうぞ」
「あ、すみません」
「それでは」
 一礼して去っていく女生徒を見送ってから、あたし達はその部屋に入ったの。
 ちなみに、男子はちょっと離れた大部屋に案内されてた。畳敷きだったから、多分柔道場じゃないのかな?
「ほんと、男ってやですよね。ちょっと美人を見ると、すぐこうなんだから」
 みのりちゃんが奮然といいながら、バッグを開けてスコアシートを出す。
「まぁまぁ。向こうに悪気は無いんだろうし……」
「いいえ、きっとあれはひびきのの作戦ですっ! 美人でこっちを骨抜きにするつもりなんですよっ!」
「そんなことはないと……」
「瑠美ちゃん、甘いわよっ! この世界は弱肉強食! 食うか食われるかなのよ!」
 みのりちゃんったら。瑠美ちゃんが怯えてるじゃない。
 あたしは苦笑して、みのりちゃんに声をかけたの。
「ほら、みのりちゃん、瑠美ちゃん。準備出来た?」
「はぁい、出来ましたぁ」
「私も、いいですよ」
「それじゃ、ちょっとグラウンドの様子、見に行ってみましょうか」
「はいっ! 秋穂みのり、地の果てまでお供しますっ!!」
 ……そんなに気合い入れなくてもいいんだけどなぁ。

 ひびきの高校は丘の上にあるから、グラウンドはそんなに広いってわけでもなかったけど、それでも結構綺麗に整備されてるみたいだった。
 他の部活も活動してるみたい。今トラックを走ってるのは……陸上部かな?
 ……あれ?
 あたしは目をこすって、もう一度、眺めてみた。
 みのりちゃんも気付いたみたい。
「あれれ? 先輩、あれ、主人先輩じゃないですか?」
「……うん。え? でも、あれって、ひびきのの体操服だよね?」
「そうですけど、でも……」
 あたし達は顔を見合わせて、慌ててみんなのいる柔道場に駆け戻っていった。

 トントン
「はぁい」
 柔道場……きらめき高校サッカー部の控え室のドアをノックすると、ドアを開けたのはユニフォームに着替えた主人くんだったの。
「主人くん、主人くんよね?」
「はぁ?」
 怪訝そうな顔をする主人くん。そりゃ当然なんだけど……。
「今、グラウンドのトラックを走ってた主人先輩がいたんですよ」
 あたしの後ろからみのりちゃんが言う。
「俺はずっとここにいたけど。なぁ?」
「ああ」
 部屋の中のみんなが頷く。でも……。
「でも、見間違いじゃないですよぉ! 確かに主人先輩でしたよ!」
 あたしの代わりに、みのりちゃんが熱弁する。
「ドッペルゲンガーっちゅう奴じゃないんすか?」
 森くんが口を挟む。
「どっぺる?」
「誰かにそっくりな姿をしてる妖怪で、自分のドッペルゲンガーを見た奴は死ぬっていう話っすよ。前に美樹原さんに聞いたことがあるっす」
 森くん、美樹原さんと仲いいもんね。でも、美樹原さん、よくそんなこと知ってたな。
「それじゃ、キャプテンのドッペルゲンガーが走り回ってるんですか?」
「よし、沢渡、見に行こうぜ!」
「こらこら」
 沢渡くんを引っ張っていこうとした茂音くんを、主人くんは苦笑しながら押さえた。それから振り返る。
「それより、そろそろ時間じゃないか?」
 言われて、腕時計を見てみる。試合開始30分前。
「そうね。ウォーミングアップとかもあるし、そろそろかな」
「よし。それじゃ行くぜっ!」
 主人くん達は、控え室から出ていったの。
 あたしはそれを見送ってから、みんなの貴重品を入れたナップザックを片手に(こういうときの貴重品の管理だって、マネージャーのお仕事なのよね)、みのりちゃんに声をかける。
「それじゃ、あたし達も行きましょう」
「はいっ! ……それはそうと」
 みのりちゃんは、きょろきょろ辺りを見回しながら、あたしに訊ねたの。
「瑠美ちゃん、どこに行っちゃったんでしょう?」
「え? あっ!!」
 あたしも慌てて辺りを見回すけど、瑠美ちゃんの姿がないの。
「みのりちゃん、あたし達の控え室見てきてくれない? あたしは先にグラウンドの方に行ってみるから」
「わかりましたっ!」
 走っていくみのりちゃんを見送って、あたしも駆け出した。

 グラウンドでは、みんながウォーミングアップを始めてた。
 あたしは左右を見回した。けど、瑠美ちゃんの姿はなかったの。
 ど、どうしよう。
 えっと、落ち着いて、落ち着いて、と。
 主人くんに知らせた方がいいかな?
 ううん、ダメよ。主人くん達は試合に集中してもらわないといけないもんね。
 でも、どうしよう……。
 あたしがおろおろしてると、みのりちゃんが走ってきた。
「みのりちゃん?」
 訊ねると、黙って首を振るみのりちゃん。
 どうすれば……。
 あーん、頭の中がパニックだよぉ。
 と。
「すいませーん」
 後ろから声を掛けられて、あたしは振り返ったの。
「はい……。えっ!?」
 そこにいたのは主人くん……。あれっ? で、でも……。
 あたしはもう一度振り返ってグラウンドに視線を向けた。うん、ちゃんと主人くんあそこにいる。
 振り返ると……やっぱり主人くん。
 えっ、ええっ!?
 と、その後ろから瑠美ちゃんが顔を出したの。
「すみません、虹野先輩、みのりちゃん。御心配をおかけしました」
 その声に、みのりちゃんも振り返って、それからあたしと同じようにグラウンドと見比べてる。
 と、とにかく瑠美ちゃんは見つかったんで、それはよかったんだけど、えっと……。
 瑠美ちゃんは平気な顔であたしに言ったの。
「途中で先輩達とはぐれちゃって、途方に暮れてたところで、主人さんに逢ったんです」
 主人さん? それじゃやっぱり主人くん? あれ? でも、瑠美ちゃん、いつもは主人先輩って呼ぶのに……。あ、そっか。主人くんはやっぱりグラウンドにいるのが主人先輩で、……はう?
「はにゃぁぁ、よくわかんない……」
 みのりちゃん、キョロキョロしすぎて目を回してる。
 あたしは瑠美ちゃんに尋ねたの。
「瑠美ちゃん、本当にこの人も主人くん?」
「はい、そうです」
「だって、主人くんならあそこに……」
「あれは主人先輩じゃないですか」
 そう言ってから、瑠美ちゃんはくすっと笑った。
「私も随分びっくりしちゃいましたけど、実は……」
 と、向こうから声が聞こえてきた。
「公二くーん!」
「あ、光?」
 目の前にいる方の主人くんは声の方に視線を向けたの。あたしもそっちをみると、ひびきのの制服を着た、赤毛のショートカットの娘が駆け寄ってきた。
「ちゃんと送り届けたの、公二くん?」
「うん、届けたんだけど……」
 主人くんは、あたしに視線を向けた。あたしは慌てて自己紹介する。
「あ、ごめんなさい。あたしはきらめき高校サッカー部のマネージャーの虹野沙希。それから、瑠美ちゃんを送ってくれたみたいで、えっと、その、ありがとう」
 ぺこりと頭を下げてから、改めて、目の前にいる方の主人くんをじっと見てみる。
 よく見ると……主人くんとは違うような気もするけど……。
 女の子の方が笑顔で頭を下げた。
「初めまして。ひびきの高校2年、陽ノ下光です。それから、こっちは主人公二くん」
「ど、ども。主人公二です」
 ぺこりと頭を下げる主人くん。……って、公二? それじゃ、やっぱり主人くんとは別人?
 あたしの顔を見て、瑠美ちゃんが説明してくれた。
「こちらの主人さんは、うちの主人先輩とは同じ歳の従兄弟同士なんだそうです」
「いとこ……?」
「ええ」
 公二くん(主人くんじゃややこしいから、こう呼ぶね)は、グラウンドに視線を向けて笑ったの。
「公は同じ歳の従兄弟ですよ。って言っても、俺の方が半年くらい早く産まれたんですけど」
「でも、主人くん、そんなこと一言も言わなかったから……」
 あたしもグラウンドに視線を向ける。
 主人くん達、ウォーミングアップに忙しくてこっちには全然気付いてないみたい。
 陽ノ下さんがくすっと笑った。
「きらめき高校の主人くんの噂は、こっちでもよく聞くんだけどね」
「悪かったな、俺はどうせ無名のアスリートだよ」
 あ、もしかして……。
「さっき、グラウンドを走ってませんでした?」
 あたしは公二くんに尋ねたの。公二くんは頷いた。
「うん。ついさっきまで、陸上部はグラウンドで練習やってたから」
「あ、もしかして、陸上部なの?」
「そうなんです。あたしと一緒で。ね?」
 陽ノ下さんがこくりと頷く。
 と、瑠美ちゃんが口を挟んだの。
「虹野先輩、そろそろ試合が始まるんじゃないですか?」
「あ、いけない。あの、ごめんなさい」
 あたしは頭を下げた。陽ノ下さんも頭を下げる。
「いいえ、こちらこそ引き留めちゃって。ほら、公二くん、行こっ」
「あ、うん。それじゃ……」
「もう帰っちゃうんですか?」
 あたしが訊ねると、陽ノ下さんは笑顔で答えてくれたの。
「あたし達は、試合見ていくつもりだよ。ね、公二くん?」
「うん、そのつもりだけど」
「良かった。それじゃ、試合が終わったら、主人くん引っ張ってくるから」
「俺?」
「バカっ。従兄弟の方でしょ」
 公二くんの頭を軽く叩いて、陽ノ下さんはもう一度あたしに頭を下げたの。
「それじゃ、また後で」
「あ、はい」
「ほら、公二くん! 行こっ!」
 そう言って、公二くんを引っ張っていく陽ノ下さん。
 なんか、仲良さそうでいいなぁ……。
「虹野先輩!」
「わきゃぁっ!」
 耳元で瑠美ちゃんに叫ばれて、あたし思わず飛び上がっちゃった。慌てて振り返る。
「ご、ごめん。すぐ行くからっ!」
「そうなんですけど、みのりちゃんも何とかしないと……」
 言われてみてみると、
「はにゃぁ〜」
 みのりちゃんは、まだ壊れてた。

TO BE CONTINUED...

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あとがき
 ここで、ときメモとときメモ2の時間軸について説明しておきます。なお、あくまでも「沙希ちゃんの独り言」という作品世界上においてはこうなっている、という説明で、実際のKONAMIの公式見解というものではありませんので誤解なきよう(笑)
 ま、読んでの通り、ときメモとときメモ2の時間軸はまったく平行です。虹野沙希と陽ノ下光は同期で、この世界においては2人とも94年入学の97年卒業です。
 ゲーム上のカレンダーでは、ときメモ2は99年入学の2001年卒業ですが、あえてこうしたのは、以下の点によります。以下、ネタバレがありますがご容赦のほどを。
 ・ときメモとときメモ2の同期イベント
  1 彫刻破壊イベント(笑)
   清川嬢が彫刻を破壊するのは3年の春です。白雪さんのあれは3年の秋です。どう考えても何年も壊れた彫刻をそのまま展示してるとは思えません。まぁ、半年も壊れたままにしといたのもちょっと理解に苦しみますが(笑)
  2 メイ様ご乱心イベント
   レイ様が家訓を守ってるのは高校の間です。となると、メイ様ご乱心はどう考えてもレイ様御在学中に起こったと考えるのが妥当かと。
 ・ときメモのカレンダー
  ご存じの通り、ときメモは数多くのバージョンがあり、それぞれ入学年次が異なっています。
  それでも、ほぼ同様にイベントが発生します。
  それはつまり、ときメモの世界においては、カレンダーがスライドしていくこともあり得る、ということで、当然ときメモ2だってスライドしていくと考えられるわけです。おそらく出ると思われるPS2版ときメモ2は、多分2000年入学になってるでしょうし(笑)
 以上の根拠をもって、ときメモとときメモ2は同時進行していると見なします。

 そうなると、計算上は、晴海さんや舞さんが高校3年のとき、香澄さんや舞佳さんが高校1年だったってことになるんだよなぁ。うーむ(笑)

 沙希ちゃんの独り言 第124話 00/2/23 Up

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