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ときめきファンタジー
第
章 想いのたけを祈りに込めて
その
第4の鍵、そして……

「ありがと」
ナツエに礼を言うと、カツマは立ち上がった。そして、怯えて一所に固まっているミラの弟達に向き直る。
「お前達も、元の部屋に戻るんだ。悪い奴等がまた来るかも知れないからさ」
「そっちの方が、悪い奴等じゃないか!!」
一人が叫んだ。堰を切ったように皆が口々に叫ぶ。
「そうだ!」
「姉ちゃんを返せ!」
「俺達をもとのところに戻してくれよぉ!」
「姉ちゃんに会いたいよぉ」
「……ちょ、ちょっと待ってよ」
ナツエが慌てた口調で割って入った。
「君達、悪い奴等に狙われてるんじゃないの?」
「そっちが悪い奴等じゃないか!!」
「?」
ナツエとカツマは顔を見合わせた。そして、倒れているユウコを見る。
「ひょっとしたら……」
カツマは呟いた。
「俺達、騙されたのか?」
と、
不意に廊下の角を曲がって、紫色の髪の美女が現れた。
「みんな!!」
「姉ちゃん!!」
6人が一斉に立ち上がると、駆け寄っていった。
「ヒカル! ウツル! サク! アキラ! コウ! キョウ!」
ミラは両手を広げると、弟達を抱きしめた。
その様子を見ながら、カツマはナツエに言った。
「ナツエ。俺達、騙されてたんじゃ……」
「あたしも、そう思う」
ナツエは、涙に暮れているミラ達を見ながら、呟いた。
「よし」
カツマは一つ頷いた。そして、ミラ達に呼びかける。
「君達」
「何?」
ミラは顔を上げた。その表情は、既にいつもの冷徹な美しさをまとっていた。
思わず赤くなるカツマ。
「え、えーっと、あの」
「カツマっ!」
後ろで、コホンと咳払いするナツエ。それで我に返って、カツマは言葉を続けた。
「俺達が……」
「いたぞ! 侵入者だ!!」
兵士達が彼らを見つけ、走ってくる。
「カツマ!」
「ああ。みんな、俺の後についてきてくれっ!!」
カツマは剣を抜くと、走り出した。
「貴様、裏切るのかっ!」
「抵抗するものは殺せぇー!」
「げぇぇ、こいつ、強えぇ!!」
一人で兵士達の中に突っ込み、剣を振るうカツマ。見る見るうちに、兵士達が左右に吹っ飛んでいくように見える。
さりげなくナツエがその後ろに続く。
弟の一人が、倒れている兵士をつんつんとつつく。
「し、死んじゃったの?」
「峰打ちだから、死んではいないわよ。さ、私達も行くわよ」
ミラはそう言うと、弟達を先に走らせ、自分はしんがりについて、起きあがろうとする兵士を蹴っ飛ばしながら走った。
「……はっ!?」
ユウコは飛び起きると、辺りを見回した。
彼女の周りには、気絶した兵士達が折り重なるように倒れていた。
「……あによ、これは……」
彼女は辺りを見回したが、すでにカツマ達の姿はない。
「んー、どーすっかなぁ。このまま帰っちゃうのも超かっこ悪いしなぁー」
何となく、頭を掻くと、彼女はすたすたと歩き出しかけ、はっとして辺りを見回す。
「ああーっ! あたしの短剣がなーい!! あんにゃろー、よくもがめたなぁ!」
彼女は近くに倒れている兵士達の武器を探ったが、あいにく長剣しか持っていないようだ。
「ったくぅ、こんな長い剣、狭い所じゃ使えないっしょ!」
ぶつぶつ言いながら立ち上がり、そして不意に彼女は走り出した。
「あいつだ!!」
彼女は、忍者としての独特の感覚で感じとっていた。
彼女の敵の存在を。
「みんなーっ、今日は聞いてくれて、サンクス、ありがとぉーっ。それじゃ、ラストナンバー行くわよぉ!」
アヤコはそう叫ぶと、リュートを激しくかき鳴らしかけた。
ビィン
すごい音がし、弦がすべて千切れ飛んだ。
「ホワット、何?」
「俺がいないうちに、派手にやってくれたな」
低い声が聞こえた。皆、一斉に顔を上げてそっちを見る。
そこには、黒いマントに身を包んだ、背の高い男がいた。
コウはごくりと唾を飲み込んだ。
「……ヒデ・ローハン……」
「ほう、お前達か」
コウとユカリを見て、彼はにっと笑うと、ばさっとマントを翻した。
「わざわざ“鍵”を持ってきてくれるとはな」
「くそっ」
コウは剣を構えようとした。
と、
「おい、どういうことなんだ!? 契約と違うじゃないか!!」
後ろから声が掛かった。ヒデは振り向いた。
そこには、カツマとナツエ、そしてミラと6人の弟達がいた。
カツマは言葉を続けた。
「俺達が受けた依頼じゃ、この子達の命を狙う奴等がいる。そいつらから護ってほしいってことだったよな。でも、逆みたいだな」
「そうよ。あたし達を騙したのね!」
ナツエが叫ぶ。
「ふふっ。お前らもあまり役に立たなかったな」
ヒデは苦笑した。ナツエの眉がつり上がる。
「なんですってぇ!?」
「まぁ、よかろう。俺が帰るまでこいつらをここに引き留めて置いてくれたわけだからな」
「莫迦にしてぇ!!」
言うが早いか、ナツエは駆け寄りざまにモーニングスターを振り下ろす。
ザシュッ
次の瞬間、鉄球が真二つに裂けて転がる。ヒデが抜き打ちの剣を振るったのだ。
「う、嘘……」
虚を突かれたナツエに、刀が振り下ろされる。
キィン
彼女の眼前、3センチのところで火花が散った。
「ナツエ、下がれっ!!」
カツマが自分の剣で、ヒデの斬撃を受けたのだった。
ヒデはにっと笑った。
「やるな、貴様も」
「ナツエに、手は出させないっ!!」
カツマは、一歩飛びすさると、「はぁぁっ」と気合いを溜めた。
「ほう?」
「行くぞ!!」
カツマは、地を蹴った。
「覇翔斬!!」
ザシュッ
ヒデの身体が、一撃で両断された。
「す、すげぇ」
コウは口をぽかんと開けた。
「やったか!?」
振り向くカツマ。
「その程度では、俺は倒せんぞ」
「なにっ!?」
地面に倒れていたヒデの身体が薄れ、消えてゆく。
「莫迦な!」
思わず辺りを見回すカツマ。
ナツエが叫んだ。
「後ろ!!」
「はっ!?」
ガキィッ
とっさに背中に剣を回し、カツマはヒデの一撃を受けたが、衝撃で飛ばされる。
「カツマ!!」
「とどめだ!」
ヒデが剣を振り下ろそうとした。
「オン・ウンケン・ソワカ!!」
ゴウッ
すさまじい風が、ヒデを捉えた。2メートルはある巨体が、数メートル飛ばされる。
「大丈夫、ですか?」
ユカリが涼やかな笑みを浮かべてカツマに訊ねた。
「あ、ありがとう」
「おのれ、油断した」
ヒデが起きあがろうとした、正にその瞬間。
「いっくぞぉーっ!!」
「何っ!?」
身体を丸めて、弾丸のようにユウコが突っ込んできた。そのまま、ヒデの身体に体当たりする。
「おうっ」
不意をつかれ、そのまま二、三歩よろめくヒデ。
その懐から、一対の小剣が地面に落ちて澄んだ音を立てた。
「し、しまった」
「もらいっ!!」
ユウコが飛びつき、剣を取って振り返ろうとした。
その緋色の瞳が見開かれる。
ヒデの漆黒のマントが目の前一杯に広がっていたのだ。
トコウスの村で、ユウコの短剣をへし折り、さらにユカリの鳳凰をも倒したマントが。
「ユウコさん!」
ドンッ
その瞬間、横に転がりながらユウコは見た。
彼女を突き飛ばしたコウがマントに包まれるのを。
「コウっ!!」
「うがぁぁぁぁ!」
ボリッ
鈍い音がし、コウは動かなくなった。そして、ヒデがマントを引くと同時に、まるで人形のようにその身体がごろりと地面に転がる。
「……バカァ……、あたしをかばうなんて……、さいってぇ!!」
ユウコは天を振り仰いで絶叫した。
その瞬間、彼女が右手に持っていた、2本の小剣が輝いた。
「なっ!?」
思わず目をマントで隠しながら、数歩後ずさるヒデ。
ユウコは、無意識のうちに、右手と左手に、それぞれ一本ずつ小剣を持っていた。
声が響きわたる。
『娘よ。汝の心に秘めし勇者への想いの確かさ、とくと確かめた。汝にメモリアルスポットが一、“遊”の象徴を託す』
「莫迦な!? “鍵”の担い手だと!?」
「やぁぁぁぁっ!!」
ユウコは、一気に突っ込んだ。慌ててマントを翻そうとするヒデ。
彼女は、それよりも早く彼の身体を駆け上がる。
「おうっ!?」
思わずのけぞるヒデ。
ユウコは、その頭上でくるっと回転し、小剣を振り下ろす。
ザシュッ
その一撃は、ヒデの首筋を切り裂いた。血が吹き出す。
「ば……、ばかな……」
「バイバイ」
すたっと着地したユウコは、ヒデに投げキッスを贈った。
そのまま、ヒデはゆっくりと倒れた。
「……あれぇ? 道に迷っちゃったよぉ。こあらちゃん、どこぉ?」
一人の少女が、建物の中をさまよい歩いていた。
「……ここかな?」
彼女は、一室をのぞき込んだ。そして歓声を上げた。
「あ! こあらちゃん!!」
5メートル四方ほどのその部屋の奥の壁を引っかいていたその生き物が、振り向いてにやりと笑った。
「何? どうしたの?」
少女は駆け寄ると、その生き物が引っかいていた壁を見た。
小さなボタンみたいなものが、装飾に隠されるように仕組んでった……のだが、その生き物が引っかいていたせいで、装飾が壊れてしまい、ボタンがむき出しになっていた。
「……これ、押せばいいのね?」
そう呟くと、少女はボタンを押した。
キィッ
軽い音がして、壁の一角が開いた。少女はその中をのぞき込んだ。
「うわぁ、綺麗!」
彼女はその中にあった指輪を取り出した。少女の髪の色にも似た、澄んだエメラルドグリーンの宝玉がはまった指輪。
「すごく綺麗……。え?」
彼女は、彼女の身体によじ登ってきた生き物を見おろした。
その生き物は、彼女の頭にしがみつくと、その手でぽんぽんと叩いた。
「貰っておけって? だめよぉ、そんなこと……。え? コウさんも気に入ってくれるって? やだぁ、もう……」
もう一度、指輪をじっと見ると、彼女は決心したように頷いた。
「うん。もらっちゃおう。もっと綺麗になりたいもん」
彼女は指輪をはめた。
《続く》

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