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ときめきファンタジー
章 スラップスティック

その それが僕の答え

「うわぁ、おじさんが一杯に増えたよぉ」
 ユミは笑うと、そのうちの一人に駆け寄るや蹴りを繰り出した。
 スカッ
 彼女の足が、アルキーシの姿を突き抜ける。
「へへっ。そっちじゃねえぜ!」
「そっかぁ!」
 答えながら、とんぼ返りをうつユミ。その姿をかすめて炎が伸びた。
「ちっ。逃げ足は早いな」
 アルキーシ達はそういうと、一斉にミハルの方を見た。
「先にこっちをかたずけるか」
「や、やだぁ!」
 ミハルはあとずさった。と、その背中の袋から、何かが飛び出す。
「なっ!」
 ガスッ
 変な動物は、躊躇いもせずに一人のアルキーシに突っ込んでいくと、爪を振るった。それをそのアルキーシは、大きく仰け反ってかわす。
「みっつけたぁ!!」
 次の瞬間、後ろからユミがジャンプし、そのアルキーシの後頭部に蹴りを叩き込み、着地ざまに裏拳を叩きつけた。
「くぅっ」 
 よろめくアルキーシ。ユミはにっと笑った。
「やったぁ!」
「甘い!!」
 ゴッ
 鈍い音がした。
「……嘘……」
 ユミは呟いた。そして、そのまま倒れる。
 その背中から、剣の切っ先が突き出していた。
 ミハルが悲鳴を上げる。
「ユミちゃん!」

「ぐっ」
 カラン
 軽い音がして、“白南風”が地面に転がった。
 レイは、コウの右肩から剣を引き抜いた。
「その腕では、もう剣は持てまい」
「くっ」
 がくりと膝を突くコウ。
「コウ!」
 アヤコがリュートを弾くのをやめて駆け寄ろうとした。
 レイはちらっと彼女を見て、無造作に剣を振った。
 ヴン
「きゃぁっ!」
 衝撃波に弾き飛ばされ、アヤコは2メートルほど飛ばされ、地面に転がった。
 右肩を押さえながら、コウが叫ぶ。
「アヤコ!!」
「コ……、コウ……」
 アヤコは、必死になって顔を上げた。体を起こそうとするが、腕に力が入らず、そのまま突っ伏す。
「大人しく見ていたまえ。心配は要らないよ。すぐに同じ所に送ってあげようじゃないか」
 そう言うと、レイは剣を振り上げた。
「死ね、コウ!!」
(これまでか!!)
 コウは、歯を食いしばってレイを睨み付けた。
「コウ! このぉっ! どいてよぉっ!!」
 ユウコは二本の小剣を振り回しながら叫んだ。
 しかし、中身のない鎧達は、倒せど倒せど起き上がってくる。
 バキッ
 一体を蹴り倒し、ミラがコウに駆け寄ろうとする。
 その背中に、別の一体が剣を振り下ろした。
 ガキィッ
 その一撃をノゾミの剣が受けとめる。
 彼女はそのまま叫んだ。
「ここは、あたしに任せて、コウを!」
「あんがと! 行くよ、おばさんっ!!」
「誰がおばさんよ」
 言い合いながら、二人はダッシュした。それを追おうとした鎧達に、ノゾミが剣を振るう。
「奥義、大海嘯!!」
 ゴウッ
 鎧達がまとめて吹き飛ばされる。ノゾミは振り向いて叫んだ。
「ユカリッ!」
「……カニヤリアテイ・ウン・ハンダ・ソワカ!」
 ユカリが呪を唱え終わった。その瞬間、彼女が組み合わせた手から光が放たれる。
 その光に触れた鎧が、一瞬にして砕け、ぼろぼろになり、砂となって風に散って行くのをノゾミは感心して見ていた。
「やるもんだなぁ」
「まぁ。そんなことはございませんよ。それよりも……」
 ユカリは視線を移した。ノゾミも慌てて叫ぶ。
「コウ!」
「いっくよぉーっ!!」
「覚悟!」
 ミラとユウコが左右から同時にレイに打ちかかった。互いの位置まで考えに入れた絶妙のコンビネーション。
 しかし……。
「なっ!?」
「そんな」
 二人の小剣と鉄扇は、黒い障壁のような物に遮られ、レイに届いていなかった。
「全くの無駄だ。ユウコ・アサヒナとミラ・カガミよ」
 そう、レイが言った瞬間。二人は衝撃波に弾き飛ばされる。
 それでも、二人とも空中で姿勢を立て直し、着地するや再び襲い掛かる。
 その眼前で、レイがすっと消えた。
「え?」
「ユウコ! 後ろ!」
 ミラが叫んだ。とっさにユウコは前に倒れ込んだ。
 ヒュン
 上着をレイの剣がかすめた。
「さすが、トキメキ国の忍者だな。大した身のこなしだ。だが」
 レイは呟くと、右手を伸ばした。
 その手から雷撃が放たれる。
 バシッ
 ユウコは軽いステップでそれを間半髪くらいでかわし、叫んだ。
「おばさん、コウくんの怪我を!」
「わかってるわ!」
 ミラはコウに駆け寄る。
 ユウコはコウとレイの間に割り込んで、“桜花・菊花”を構えた。
「無駄だと言ったはず」
 レイはそう言うと、右手をユウコに向けた。
 その手から、無数の光球が打ち出される。
「きゃぁぁっ!」
 一瞬で、弓なりの軌跡を描きながらユウコに殺到した光球が、彼女の身体を全方向から貫いた。
「……コウ……」
 そのまま倒れるユウコ。
「ユウコ!」
「ユウコ……さん」
 コウは、必死に立ち上がろうとした。
 レイが一歩一歩近づいてくる。
 ミラがコウをかばうように立ちはだかった。
「コウさんには、手を出させはしませんわ」
「邪魔だ!」
 レイは、右手一本でミラの首を掴んで、持ち上げた。
「ぐっ」
 その瞬間、その右手が雷光を発した。
 ミラの悲鳴が辺りに響いた。
「あまり、レイ様に負担かけちゃ、俺が怒られるな」
 アルキーシは、その悲鳴を聞いて眉をしかめると呟いた。そして剣を抜く。
 ユミは、その場にうつ伏せに倒れた。みるみる赤い血が広がっていく。
「さて、と」
「てっめえぇぇ!!」
 ヴン
 数本の短剣が飛んできた。アルキーシはあっさりと自分の剣でそれをたたき落とし、笑った。
「てめえは最初から物の数に入ってねぇんだ。大人しくしてたら命だけは助けてやるぜ」
「やかましい!!」
 ヨシオは叫ぶと、飛びかかっていった。
「絶対に許さねぇ!! てめえだけは、絶対に!」
「ばーか」
 あっさり言うと、アルキーシは剣を振るった。
 カイィン
「なっ!?」
 ヨシオの腹を突き刺すはずの剣があっさり弾かれ、虚を突かれたアルキーシの顔に、ヨシオの拳がめり込んだ。
 続けざまに5発のパンチを浴びせ、ヨシオは飛び退いた。
「くぅーっ。なかなかいい拳じゃねえか」
「この程度ですまさねぇ」
 ヨシオは叫んだ。
 その服の隙間から、光る石がちらっと見え、アルキーシは納得した。
「そうか、輝石はお前が持ってたってわけだ」
「行くぜ! ヨシオパーンチ!!」
 ヨシオは飛びかかった。
「甘いわぁ! 魔王四天王相手に同じ技が何度も通用するか!」
 アルキーシは軽くそれをかわし、剣を振り上げた。
「出でよ、水ーっ!!」
 ドドォーッ 
 突然、水が噴き出し、アルキーシを飲み込んだ。
「うわぁーっ!! また同じパターンじゃねぇかぁぁぁぁ」
 叫びながら流されて行くアルキーシ。
 ヨシオがちらっと振り向くと、指輪のはまった右手を構えたまま、ミハルが荒い息をついていた。
 彼は慌ててユミに駆け寄った。
「ユミ!!」
「さて、と」
 ユイナはレイの方に向き直った。
「あいつとも決着を付けないとね」
「その前に、私とではないのですか?」
 その声に、振り返るユイナ。
 そこには、何事もなかったかのようにダーニュが腕を組んでいた。
 ユイナは肩をすくめた。
「そのまま逃げるなら、見逃してあげようと思ったけどね」
「そうもいくますまい。貴女と私は敵同士なのだから」
「……今は、そうね」
 呟くと、彼女はきっと相手を見据えた。
「本気で、行くわよ」
「望むところ」
 チャキッ 
 ダーニュは剣を構えた。

《続く》

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