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ときめきファンタジー
章 ハートのスタートライン

その 雨のちまた雨

 メモリアル大陸のさらに北には、広大な海が広がっている。その先には世界の果てがあると信じられている。
 そして、その世界の果てにあるといわれているのが、魔王の座する島、通称魔王の島である。
 今まで伝説の中にしか存在しなかったその島だが、1000年ぶりの魔王の復活とともに、その島の存在も人々の記憶の奥底から甦っていた。
 とはいえ、どこにあるか、詳しい事までは誰も知る者はいなかった。
 だが、確かにその島は存在していた……。

 魔王の島は、四方を断崖絶壁に囲まれており、普通に進入しようとしてもできるものではない。
 それ以前に、空を飛ぶ魔物によって周囲には監視の目が光っており、島に近づこうとする船はすぐに発見され、そしてその場で沈められてしまうのが常だった。
 その魔王の島に行くため、“鍵の担い手”の一人にして、魔王の手の者にも“智将”としてその名を知られるミオ・キサラギは一計を案じていた。
 メモリアル大陸の北の果て、海沿いにある小さな町、スゾク。
 魔王の軍勢に襲われ、廃虚と化していたこの町に閉じこめられていた魔物を一掃したコウ達は、休む間もなく、魔王の島に向けての最終ミーティングに入っていた。
「船で近づくのは自殺行為です」
 まずミオはきっぱりと言った。
「魔王の十三鬼はまだ十二匹が残っています。おそらく、彼らとの戦いは避けられないでしょう。とすれば、逆に魔物と無駄に戦って力を消耗する愚は避けなければなりません」
「道理だね」
 ノゾミは肯いた。キラメキ騎士団の一員であり、彼女たちの中ではほとんど唯一の職業軍人である彼女は、当然戦術論も学んでいる。
「でも、それじゃどうやって近づくんですか? 魔王の島に行くには、ユイナさんの転移術も使えないと思うんですけど」
 ミハルが、遠慮がちにではあるが、意見を述べた。
 トキメキ国を“コアラちゃん”と共に放浪していた彼女は、当然きちんとした教育を受けているわけではないが、その呑み込みの早さはミオをして驚嘆させているほどのものがある。
「確かに、それは認めざるを得ないわね」
 キラメキ王国、いや、世界でも随一と呼ばれる黒魔術師のユイナは、彼女にしては珍しく、素直に自分では出来ないことを認めた。
「長距離の転移術は、転移先に魔法陣を描く必要がある。つまり、行った事もない魔王の島には当然魔法陣も描いてないから、長距離転移術は使えないわ。
 “ライブラリ”の中にある転移呪文を使えば、あるいは行けるかもしれないけれど、行けないかもしれない。使ったこともないような呪文じゃ、結果はわからないわ。
 それに、魔王だって島に魔法結界を張っているはず。術じゃ進入できないと考えた方がいいわね」
 ちなみに、“ライブラリ”とは、彼女が持つメモリアルスポットで、古代の超呪文が収められている呪文書のようなものだ。
 ユウコが小剣を玩びながら訊ねた。
「船で行くのも駄目、転移呪文も没。としたらさぁ、どうやって行くん?」
 ミオが我が意を得たりとばかりに、眼鏡の奥の目を細めた。
「海の底から行きましょう」
「海の底?」
 スゾクの町の港の跡に一同は集まっていた。
 ミオはユカリに言った。
「それでは、お願いします」
「はい」
 うなずくと、ユカリは波打ち際に黄金の埴輪を置いた。そして、一歩下がって、印を組む。
「ナウマクサンマンダ・ボダナン・サンダダツヤ・ダッパソワカ」
 と、見る間に黄金の埴輪が巨大化していく。そして数瞬後には、そこに巨大な黄金の亀が身を横たえていた。
 ユカリのメモリアルスポットであるこの黄金の埴輪は、彼女の唱える呪文によって、いくつかの姿を取る事が出来る。この亀の姿、通称“玄武”形態もそのうちの一つで、水上や水中を移動する事が出来る。
「これで、よろしいでしょうか?」
 にっこりと笑って訊ねるユカリに、ミオも笑顔でうなずいた。
「ありがとうございます」
「もしかして、これに乗っていこうってわけ?」
 コウはミオに訊ねた。
「はい。もっと正確に言えば、私たちはこの亀の中に入って、海の中に潜ることになります」
 アヤコが目の前の海をこわごわ眺めながら、ミオに聞き返す。
「ミオ……。リアリー、本気?」
「ええ」
 あっさり答えるミオに、アヤコは思わず天を仰いだ。
「ジーザス! これで海の中に潜ろうなんて、イッツクレイジー、正気の沙汰じゃないわ! 第一ずっと潜ってたら息が出来なくなるでしょう?」
 以前、ノウレニック島に行く船が難破したときに、アヤコはサキとユカリの作った“泡”に助けられてあやうく九死に一生を得た。ところが、その泡が密閉された空間だったために、今度は息が出来なくなって、窒息しかけるという目にあっているのだ。
「大丈夫ですよ」
 あっさりと答えるミオ。
「要は空気が交換できればいいんですよ。あの中には……」
 彼女は玄武を指して言葉を続けた。
「充分に空気が入っています。それが足りなくなれば、ミハルさんにお願いして、空気を入れ替えてもらえばいいんです」
 ミハルの使う召喚術について、ミオは暇を見つけては色々と研究していた。その結果、次の事に気がついたのだ。
 ミハルの召喚術は、物体の空間と空間を入れ替える術である。
 たとえば、ミハルが「りんご」と召喚すると、りんごが出現する。このとき、元のりんごがあったところには、りんごが出現するところに存在した空気が現れているのだ。
 つまりミハルが「空気」と召喚すれば、どこかの空気と近くの空気が入れ替えられる。これで換気をすることが可能になるわけだ。
「あのさ……」
 ミオの説明を脇から聞いていたノゾミが、不意に彼女に尋ねた。
「一つ聞いてもいい?」
「なんでしょうか?」
「前から思ってたんだけど、どうしてもっとミハルの力を有効に使わないんだい? そうすれば、魔物との戦いだって、もっと有利に進められると思うんだけどさ」
 ミオは微笑んだ。
「確かに、そうです。ミハルさんの力を使えば、もっと楽に戦いを進めることが出来たかもしれませんね」
「それがわかってたんなら、どうして……?」
「使うべきじゃない力だからよ」
 後ろから声が聞こえた。ノゾミはぎょっとして振り返った。
「ユイナ?」
 ユイナは、魔王の島のある北の海をじっと見つめていた。
 その唇から声が漏れる。
「遮音結界を張ったわ、ミオ。言ってもいいわよ」
「ありがとうございます」
 ミオは一礼し、ノゾミに向きなおる。
「私も、ユイナさんも、ミハルさんの力がどれくらい有効かは知っています。確かにユイナさんやユカリさんのように直接攻撃の力はないですが、場合によってはそれ以上の力を発揮できると思います」
「それなら、なぜ?」
 訊ねるノゾミに、ミオは静かに答えた。
「まず第一に、ハッキリ言ってしまえば、いまいち信頼できないという点にあります。勿論、ミハルさん自身は信用できるんですが……」
「その力の発動範囲を限定できないのが、最大の難点ね」
 ユイナが組んでいた腕を解いて向きなおる。
「それに、施術者本人の精神的安定度が低いのも欠点だわ」
「私は、一概に欠点とは言わないですけどね」
 ミオは苦笑した。それを見て、ユイナはフンと鼻を鳴らして、海の方に向きなおった。
「なんだい、その精神的安定度ってのは?」
「どんなときでも冷静沈着で、正しい判断を下せるかどうか、ということです。今までのミハルさんを見る限り、いざというときは結構慌ててしまってる事が多いですよね。そんな時に正しい判断が下せるとは……」
「そっかぁ……」
 言われてノゾミはうなずいた。
「それと、もう一つ」
 ミオは眼鏡を外して拭きながら、言った。
「魔王達に、あまりミハルさんに注目して欲しくないんです」
「え?」
「ミハルさんの力、これが魔王との戦いで切り札になりそうな、そんな気がするんです。ですから、あまり派手に使いたくないんですよ。やむを得ない場合は、もちろん使いますけどね」
 そう言うと、ミオは眼鏡を掛けなおした。
「ユイナさん、ありがとうございました」
「……」
 ユイナは無言で遮音障壁を解除した。
 不意にアヤコはきょろきょろと辺りを見回した。
「そう言えば、そのミハルは?」
「こら、ごまかすんじゃないよ」
 笑ってノゾミが言った。
 その頃、ミハルは町外れにいた。
 その胸には変な動物−ミハル曰く「こあらちゃん」−が抱かれていた。
 町外れの森のそばまで来たところで、ミハルは、そっと、その変な動物を地面に降ろした。そして、自分もしゃがみ込んで、目線を合わせると、話しかけた。
「こあらちゃん、いままでありがとう」
 変な動物は、小首を傾げてミハルを見上げた。
 ミハルは、変な動物に語りかける。
「あのね、こあらちゃん。私、コウさんと一緒なら、魔王の島だってどこだって、怖くなんかないの。でも、こあらちゃんは、そんなところに行くのは嫌だよね。だから、ここでお別れしようよ」
 そう言うと、ミハルは立ち上がった。
「もし、一緒に連れて行って、こあらちゃんまで怪我したり死んだりしちゃったら、私もいやだもん。だから、こあらちゃんとはここでお別れしよ。ね?」
 その瞳から、大きな涙が流れ落ちた。
 ミハルがこの変な動物と、いつ出逢ったのかは、ミハル自身も覚えていない。物心ついたときから、この一人と一匹は一緒にトキメキ国を旅してきたのだ。
 その変な動物を、ミハルはこの地に置いていこうとしていた。
「ごめんね、こあらちゃん。でも、こあらちゃんを危ない目に逢わせたくないの」
 しゃくり上げながら言うと、ミハルは背を向けた。
「いままで、本当にありがとう。私、あなたが、……あなたがいてくれて、本当に楽しかったよ。……さよなら!!」
 そのまま駆けだすミハルを、変な動物はその場に座りこんだままじっと見送っていた。
「でもでも」
 なんとか水に入るということは回避したいアヤコは、金色に輝く玄武を指して、言った。
「こんなゴールデン、金色だと目立つわよ、きっと。すぐにルックアウト、見つかっちゃうわ」
「それも考えてあります。海底では光も届きませんから、金色だろうと何だろうと見えないでしょう。それに、メグミさんにお願いして精霊魔術も併用しようと考えていますし」
 メグミの操る精霊魔術の中には、精神の精霊に働きかけ、そこにあるものを、気にも止めさせなくする、というものがあるのだ。エルフがめったに見られないのは、精霊使いである彼らがこの術を使えるから、というのも大きい。
 アヤコはちっちっと指を振った。
「ノンノン。こんな魔力をビンビンに出してるもの、魔力感知すればすぐに見つかっちゃうって。だからやめましょう」
「この札を貼れば、魔力の放出はおさえられます」
 ミオは、懐から札を出してみせた。そして、その札を玄武に向かってすっと投げると、札は空を舞い、玄武の上にピタリと貼り付いた。
「ええと、ええと……」
 アヤコは考え込むと、玄武を指した。
「なんていうか、ほら、あたしは体が弱いからこういう亀は駄目なのよ」
「アヤコ、往生際が悪いぞ」
 にぃっと笑って、ユウコがアヤコの肩を叩いた。その反対側の肩をサキが叩く。
「アヤちゃん、根性よ!」
「オーマイガット」
 アヤコはがっくりと肩を落とした。
 コウは、黄金の亀に近寄った。見るからに巨大なその亀は、高さ2メートル、縦横それぞれ20メートルはありそうだ。
「でも、どうやってこの中に入るんだい?」
 そう言いながら、コウは何げなくその亀の横腹を叩いてみようとした。
 シュ
 手が吸い込まれた。
「え?」
 コウは慌てて手を引っ込めた。そして、金色に輝く亀と自分の手を見比べ、そしてユカリを見た。
「ユカリさん、これって?」
「はい。中にお入りになれますよ」
 ユカリの説明によると、彼女が入れようと思ったものだけが出入りできるのだという。
 コウはあらためて、無表情な亀の横顔と、にこにこしているユカリの顔を見比べるのだった。
 数時間後、総ての荷物を積み込んだ亀が、しずしずと海の中に沈んでいくのを、じっと物陰から見つめる、二つの人影があった。
「それにしても、顔くらい見せてやればいいのに。コウのやつ、あの墓見て随分としょげてたぜ」
 やや背の低い、がっちりした体の男が言う。その男の胸には、サキのそれと良く似た聖印がある。随分長い間使われていたであろうそれは、鈍い光を放っていた。
 もう一人の、すらりと背の高い男は口元に苦笑を浮かべた。
「駄目だよ。今俺が出ていったら、コウは俺に頼っちまう。いや、コウだけじゃない。サキ・ニジノ、ミオ・キサラギ、ノゾミ・キヨカワ。みんな俺に頼っちまう。それじゃ駄目なんだよ。自分たちの力だけで進んでいかなけりゃいけないんだ」
「でもなぁ……」
「カジ、頼むよ」
 彼は静かに言った。カジ、と呼ばれた男は破顔した。
「それほどあいつらもガキじゃないって。ったく、子供の成長に一番気がつかないのは、その親だって知ってるか?」
 長身の男は振り返った。
「かもしれないがな。おまえこそ、俺に付き合ってないで、さっさと王都に帰ればよかったのに」
「俺は、おまえを助けて、シオリ姫に泣いて感謝される事を楽しみにしてるんだよ」
 カジは笑った。
「それくらいは、役得としてもらってもいいだろう? まぁ、あいつらも行ったことだし、もう隠れなくても大丈夫だな。そろそろ引き上げるか」
「そうだな」
 長身の男……キラメキ騎士団最精鋭の赤の部隊を率いる隊長であり、シオリ姫の養父でもある騎士、リュウ・フジサキは肯いた。
 その親友であり、スゾクの町の激戦の中、瀕死の重傷を負っていたフジサキを助けた従軍僧カジ・フライドは、また笑った。
「コウが上手くやって、シオリ姫を助けてくれれば、俺にもまだチャンスはあるってな」
「おい……」
 フジサキは苦笑した。そして、海の方に視線を向けた。
 既に玄武の姿は波間に見えなくなっていた。
 彼は、静かに呟いた。
「シオリを、そして世界を……、頼むぞ。コウ……」
「わぁ、ホントに海の中だぁ!」
 ユミが歓声を上げる。
 黄金の亀の内部は、周囲を金属に囲まれたがらんどうの空間だったが、サキが気をきかせて毛布を床に敷き、さらにユイナが嫌そうな顔をしながらも、周囲の景色を壁面に映し出す呪文を唱えて外の様子が見えるようになった。
 そのため、一行はちょっとしたリゾート気分を味わっていた。
「ほら、コウさん! お魚さんがいっぱい!」
「そうだね」
 コウも、物珍しい海中の風景に、じっと見入っていた。
 ミオは、床に地図を広げてレイに訊ねていた。
「それでは、魔王の島までどれくらいの距離があるのかは、ごぞんじないのですか?」
「ああ。僕たちはおじい……、いや、魔王の作った特別な“道”を使って島から出入りしていたから」
 レイは答えた。そして、顔を上げる。
「でも、方向に間違いはない。あっちの方向だ」
「ユカリさん、お願いします」
「はい、わかりました」
 ユカリはにこっと笑う。と同時に亀はそちらの方向に進んでいく。
 そして、2週間がたった。
「ここが、魔王の島……」
 玄武の天井に映し出された映像に、皆は息を飲んだ。(若干そうでない者もいたが)
 黒々としたシルエット。時折空を走る稲光が、そのすごみをより一層増している。
 ミオは難しい顔で、地図とその魔王の島とを見比べながら呟いた。
「思ったよりも海流に流されてしまって、時間が掛かりすぎましたね」
「ミオさん……」
 そんなミオを、サキは心配げに見ていた。
(もう、限界なのよ、ミオさん。それでも、まだ頑張るの?)
 サキの見たところ、今のところミオは、咳き込む回数も少し減ったし、顔色も良くなっているように見える。
 しかし、サキは知っていた。一時的に回復したように見えて、そのまま一気に死に至ってしまう場合が多い事を。
 あたかも、ろうそくが燃えつきる寸前に、ひときわ明るく輝くように。
 しかも、ユイナがミオに言った「限界」は過ぎようとしている。つまり、ミオはいつ倒れてもおかしくないし、そして倒れたら最後、そのまま不帰の客となってしまう可能性が高いのだ。
(あたし、もう黙ってるなんて耐えられない。いっそコウさんに全部……)
「あの……」
 サキは、コウに声を掛けた。
 ちょうどそのとき、コウは剣の柄頭に手を置いて呟いた。
「シオリ……」
「!!」
「何か言った?」
 振り返ったコウに、サキは首を振った。
「ご、ごめんなさい。なんでもないんです」
(そうよね。コウさん、シオリ姫を助けるために、ここまで来てるんだもんね。それに、シオリ姫が生贄にされちゃうまで、あと1週間しかないのよね。これ以上、コウさんに心配かけられないわ)
 サキは一人、肯いた。
「でも、どうやって島に入るん?」
 ユウコが質問した。
 島の周囲は切り立った崖になっているのが、その映像からも見て取れた。また、その崖の側には、何か黒っぽい影がいくつも舞っている。こんなところにただの海鳥がいるとも思えない。周囲を警戒している魔物だと皆にもわかった。
「あたしなら、崖をよじ登っても行けるけどさぁ、誰とは言わないけど身の重そうな人もいらっしゃるみたいだしぃ」
「あら、どうして私を見るのかしら?」
「あっれぇ? 誰もミラだなんて言ってないんだけどなぁ」
「こ、この小娘、人が大人しく聞いていれば言いたい事言ってくれますわね!」
「あによぉ。あたしはホントの事しか言ってないっしょ!」
 ミラとユウコがにらみ合い、慌ててサキが割って入る。
「二人とも、ね、落ちついて」
「どきなさい、サキ! 今日と言う今日は、このバカ娘に常識というものを叩きこんでさしあげますわ」
「何言ってんだか。サキ、さがっててよ」
「あーん、もう二人ともやめてぇ!」
 その騒ぎをよそに、ユイナが口元に笑みを浮かべて言った。
「強行突破しかないわね」
 そもそも、こっそり隠れて潜入するという方法自体が彼女の気性に合ってないのだ。今まで我慢していたのは、それが最善策であるという正論があったからに過ぎない。
 それがよくわかっているミオは、あっさりと彼女を説得することを放棄した。その代わりに訊ねる。
「私たち全員をあの崖の上まで持ち上げられますか?」
「亀ごとね? 出来なくもないわよ」
 あっさり答えるユイナ。
 ミオは頭を下げた。
「では、お願いしますね。この中に乗っていた方が安全でしょうから」
 ユイナは軽く肯くと、すっと両手を挙げた。朗々と呪文を唱える。
『ユイナ・ヒモオの名において命じる。大地よ、今ひとときその呪縛を解け!』

《続く》

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