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宇宙戦艦セント・エルシア その8
新しい仲間

「これです」
 私は、ウィンドウを立ち上げると、その角にあるアイコンを指しました。
 菜織ちゃんが横からのぞき込んで、首を傾げます。
「説明も何もないの?」
「あ、うん、そうなの」
 私は頷くと、真奈美ちゃんに訊ねます。
「真奈美ちゃん、どうしよう?」
「とにかく、起動させてみましょう」
「ちょ、ちょっと。危ないものだったらどうするのよ? 自爆システムとか……」
「大丈夫だよ、菜織ちゃん。自爆コードなら、艦長と副長の承認コードが必要なんだもん」
 真奈美ちゃんに言われて、菜織ちゃんは腕組みします。
「それはそうだけど……。で、でも、他にも危ないやつって色々とありそうじゃない」
「あ、そっか。それもそうだね……。でも、それならそれで、危ないって説明が付いてると思うし……」
 真奈美ちゃんは、顎に手を当てて考え込みました。それから、顔を上げます。
「菜織ちゃん、乃絵美ちゃん、やっぱり起動してみようよ。大丈夫。きっと危なくないから」
 菜織ちゃんはため息をつきました。
「真奈美って時々大胆よねぇ。やっぱり変わってないわ」
「菜織ちゃんって時々慎重なんだよね。本当に変わってないんだね」
 顔を見合わせて、同時に噴き出す2人。……やっぱり2人とも、あの頃のままの仲良しです。
 菜織ちゃんは、私の肩にぽんと手を乗せました。
「乃絵美、お願い」
「あ、はい」
 私は、起動させてみました。
 ピッ

 警告
 当システムを起動させるには、専用パスコードが必要です。


「あらら。乃絵美、わかる?」
「ええと、ちょっと待って」
 私は、いくつかウィンドウを立ち上げて調べてみました。
 ……ダメみたいです。
「……ごめんなさい」
「乃絵美でもダメなの?」
「はい。何かのシステムの起動プログラムなのは間違いないんですけれど、二重のプロテクトがかかってます。私じゃ、とても……」
「そうなんだ。乃絵美でダメとなると……」
 菜織ちゃんは少し考えてから、首を振りました。
「あ〜、ダメダメ」
「どうしたの、菜織ちゃん?」
 真奈美ちゃんに聞かれて、菜織ちゃんは今度は手を振ります。
「ううん。ちょっと危険かもしれないから……」
「危険?」
 その時、突然後ろから大きな声がしました。
「うっわーっ、これこれっ、こーゆーのを待ってたのよ! 舶用ブロードキャスト改め、エルシアブロードキャスト、略してEBCの敏腕レポーター、ミャーコちゃんの出番よねっ!」
 び……、びっくりしました。
 私は胸を押さえました。まだドキドキしてます。
 菜織ちゃんは額を押さえます。
「……知られちゃったらしょうがないかぁ」
 菜織ちゃんが危険って言ったの、ミャーコさんのことだったんですね。
 ミャーコさんは自分のシートに滑り込むと、インカムを付けながら私に向かって言いました。
「のえのえ、こっちにそれ回してっ」
 のえのえ?  ……多分、私のことですよね?
「あ、はい」
 頷いて、私はウィンドウをもう一つ立ち上げて、ミャーコさんの方に押しやりました。
 すぅーっと空中を動いていったウィンドウをミャーコさんが押さえます。
「ナイスパス。にゃははっ」
 笑うと、今度は猛烈な勢いで手元のキーボードを叩き始めます。
「……ん〜、こりゃまた結構やっかいなプロテクトだね〜」
「ふわぁ、何の騒ぎだい?」
 そう言いながら、冴子さんがブリッジに入ってきました。Tシャツにホットパンツっていうラフな格好です。
「ちょ、ちょっとサエ! その格好……」
「あん? 構わねぇだろ、男はいないんだし」
 ぽりぽりとお腹を掻きながら答えると、冴子さんは一つあくびをしました。
 確かにお兄ちゃんも今はブリッジにいません。今の時間は、部屋で寝てるんです。え? どうして知ってるのかって? それは、その……。恥ずかしいから言えません。
「で、どうしたんだい?」
「あ、実は……」
「ん、わかったぁっ!」
 不意にミャーコさんが声を上げました。そして振り返ります。
「これ、メインコンピュータシステム起動アイコンだよ」
「はぁ? コンピュータって今動いてるんじゃねぇのかよ?」
 冴子さんがブリッジを見回して尋ねます。
 真奈美ちゃんが艦長席に座りながら答えました。
「それが、今はサブシステムで動いてるみたいなの。ミャーコさん、メインシステム起動、出来る?」
「わかったぴょん。システム、起動っと!」
 ピッ
 微かな音がして、それから女の人の声がしました。
「“セント・エルシア”メインコンピュータシステム起動プログラム、スタートしました。プロテクト解除コードを入力してください」
 振り返るミャーコさんに、真奈美ちゃんは頷きました。ミャーコさんは向き直って、インカムに向かって言いました。
「プロテクト解除コード、VC2207」
「解除コード確認。承認コードをどうぞ」
「承認コード、P・R・I・S・E・A」
「承認コード確認。メインプログラム、起動します」
 その瞬間でした。
 ブリッジの真ん中にふわっと光が集まったかと思うと、その光が薄れて、女の人の姿になりました。
 青い長い髪の、美人で、その、ちょっと露出が多い服の、……あんまりお兄ちゃんには見せたくないです。
 その人は、私たちをぐるりと見回して、言いました。
「現状の概略を説明せよ」
「……は?」
 みんな、一瞬目が点になりました。

「私は“セント・エルシア”のメインコンピュータシステムのうち、システム全般を担当してるプログラム。コードネームはプリシア」
 その女の人は、それだけ言うと、ブリッジを見回しました。
 真奈美ちゃんが立ち上がりました。
「えっと、プリシアさん、でいいのかしら?」
「初期設定名称であるため、任意で名称は変更可能。ただし、その権利を持つのは、艦長のみと限定」
「うん、それじゃそのままでいいよ」
「確認。初期名称の変更はなし」
「それじゃ、まずはシステムの説明をしてくれるかしら? あ、現状については、サブシステムからダウンロードしてくれるかしら」
「……現在の状況をサブシステムからダウンロード完了。乗員名簿に変更は?」
「ええ、変更なし……。あ、変更は出来るの?」
「……変更には、アドミニスター権限が必要」
「そう……」
 ため息をつく真奈美ちゃん。あ、菜織ちゃんと冴子さんが首を傾げています。
「あど……なに?」
「アドミニスター権限。別名管理者権限って言って、現在の宇宙軍の艦船規約では、宇宙軍本部のコンピュータシステム開発部の人しか持っていない権利のことだぴょん」
 ミャーコさんが肩をすくめました。
「さすがのミャーコちゃんも、あそこには手を出せなかったんだよ。でも、いつかプロテクトを破ってみせるんだもん! 尊敬する先輩の名にかけてっ!」
 盛り上がるミャーコさんをよそに、真奈美ちゃんはプリシアさんと話を続けています。
「それじゃ、乗員名簿はそのまま」
「乗員名簿、全員確認。……鳴瀬艦長?」
「ええ。それじゃ改めて、コンピュータシステムの説明をしてくれるかしら?」
「了解」
 プリシアさんは頷いて、手を腰の後ろで組んで、歩きながら説明を始めました。
 ……なんか、コンピュータ映像には見えないです。
「“セント・エルシア”のメインコンピュータシステムは、3本のプログラムから構成。自分と、戦闘戦術に特化したプログラム、そしてバックアップシステムプログラムの3本。それぞれコードネームは初期設定でウィンディ、ユーティ。これらも艦長権限で変更可能だが?」
「初期設定のまま承認」
 真奈美ちゃんの言葉に、プリシアさんは頷きました。
「了解。説明を続行する。通常はプリシアのみが起動しているが、戦闘状態に入った時点でウィンディが起動する。ユーティはバックアップシステムなので、私やウィンディが何らかの理由で正常に動作しなくなった時点で起動する」
 そう言うと、不意にプリシアさんは空を見上げるように天井を見上げました。それから私を見ます。
「貴官が、“セント・エルシア”の主任コンピュータオペレータの伊藤乃絵美准尉か?」
「えっ? あ、はい、伊藤乃絵美ですけど、准尉じゃ……」
「乃絵美」
 菜織ちゃんが私の腕を掴んで、耳元に囁きました。
「ブリッジオペレータには、普通、准尉よりも上の地位の人でないとなれないの。だから、一応准尉っていうことになってるのよ」
「あ、そうなんですか」
「記録に誤りがあるのか?」
 プリシアさんに聞かれて、私は首を振りました。
「いいえ、そうです」
「了解。以後、貴官によりナビゲートされることを認識する。以上だ」
「あっ、は、はい……」
 思わず固くなって返事する私を見て、真奈美ちゃんが苦笑する。
「軍用システムだから、言葉遣いが固いのはしょうがないよね」
「でも、これはひどいわよ。サブシステムよりもひどいんじゃない?」
 菜織ちゃんもプリシアさんに視線を向けて、苦笑しました。それから、ミャーコさんに尋ねます。
「ミャーコ、マンマシンコミュニケートサブルーチンに問題あるんじゃない?」
 マンマシンコミュニケートサブルーチンっていうのは、コンピュータの中でも特に人間との間に立って、人間の言うことをコンピュータ本体に伝えたり、その逆をしたりする部分なんです。これが出来るまでは、キーボードを叩いて複雑な操作をしないとコンピュータは使えなかったんです。みんながしゃべっただけでコンピュータと会話できるのも、この部分のおかげなんですよ。
「ちょっち待ってね〜。……あらら、このマンマシンコミュニケートサブルーチン、初期設定のままだぴょん」
 ウィンドウを開いて、ミャーコさんは呆れたような声を上げました。
 冴子さんがぼそっと口を挟みます。
「初期設定って、そりゃ初めて起動したんだから……」
「サエちゃん、やっぱコンピュータはダメダメだぴょんっ」
 からかうように言われて、冴子さんはかぁっと赤くなりました。
「う、うるせぇ。どうせあたしはコンピュータ初級講座落としたわいっ」
 あ、それ、私でも3ヶ月で単位取れました。通信講座でしたけど……。
「まぁまぁ、2人とも。えっと、軍のシステムの場合、普通、マンマシンコミュニケートサブルーチンってどのコンピュータも共通の筈だよね。確か……モナコバージョン3.3だったかな?」
 真奈美ちゃんが口を挟みます。
 軍がどうなのかは私にもよく判りませんが、確かに今まで使っていたサブシステムも、確かにそのモナコで動いていました。
 あれ? でも……。
「このメインシステムのマンマシンコミュニケートサブルーチン、モナコじゃないよ」
 私が言おうとしたこと、先にミャーコさんに言われちゃいました。
 菜織ちゃんが私に尋ねます。
「モナコじゃないの、乃絵美?」
「えっ、あ、はい、そうみたいで……」
「えーっとぉ、プリシアPR1.01だって」
 プログラムナンバーを読みとったミャーコさんが、代わりに答えてくれました。
「このホログラムを含めて、マンマシンコミュニケートサブルーチン・プリシアってことみたいだよ」
「それじゃ、きっと新しいバージョンを試験的に搭載したんじゃない?」
 菜織ちゃんが言うと、プリシアさんに尋ねました。
「そうじゃないの?」
「質問の意味不明」
 素っ気なく答えるプリシアさん。菜織ちゃんは肩をすくめました。
「ま、いいか」
「質問を撤回したものと判断する」
「ん〜〜」
 ミャーコさんは、そんなプリシアさんの後ろ姿を見て、何かうなっていました。

 シュン
「ふわぁ、おはよう……。あれっ?」
 ブリッジが開いて、欠伸をしながら入ってきたお兄ちゃんが、プリシアさんを見て思わず立ち止まりました。
「わっ、だ、誰……じゃなくて、どちら様ですか?」
「何敬語使ってんのよっ!」
 がすっ
 菜織ちゃんに肘打ちを叩き込まれて、思わず咳き込むお兄ちゃん。いい気味で……じゃないっ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
 私は慌てて駆け寄りました。
「あ、いや、大丈夫。ありがとう、乃絵美」
 やっぱりお兄ちゃんは優しいです。それなのに私ったら。反省しなくちゃ。
 お兄ちゃんはプリシアさんに視線を向けました。
「ところで、この美人さんは誰?」
 ……ちょっとむっとしちゃいました。
 プリシアさんが、お兄ちゃんに自己紹介します。
「“セント・エルシア”メインコンピュータ・マンマシンインタフェースシステムのプリシア。伊藤正樹少佐、“セント・エルシア”副長と認識した。異なる場合は修正せよ」
「……俺って副長だったのか?」
 自分を指して、菜織ちゃんに尋ねるお兄ちゃん。菜織ちゃんは呆れたように肩をすくめました。
「まったく。乗員名簿に目くらい通して置きなさいよ」
「絶対に変更できないんだから、いつ目を通しても同じだろ? 第一、俺が少佐ってどういうことだ? 俺は准尉だったはずじゃ……」
「副長は艦長と同じもしくは下の位で、同じく佐官が任命されるって決まってるの。正樹くんも知ってるでしょう?」
 ため息をつきながら、菜織ちゃん。
 艦長席から振り返って、真奈美ちゃんが言いました。
「よろしくね、伊藤正樹副長」
「あ、ああ……」
「何赤くなってんのよっ」
 ぐしっ
「いってぇぇぇっ!!」
 菜織ちゃんにつま先を踏まれて、お兄ちゃんは飛び上がりました。
「何すんだっ、菜織!!」
「うるさいわね。どうせあたしは操舵長よ。ふんだ」
 ぷいっとそっぽを向いて、菜織ちゃんはどかどかっと歩いていくと、自分の席に滑り込みました。
「菜織ちゃんも正樹くんも喧嘩しちゃだめだよ。ど、どうしよ……」
 ちょうどその間の艦長席で、おろおろしている真奈美ちゃん。
「むふふふ、ブリッジの微妙な三角関係。これは波乱が期待出来そう」
 ミャーコさんが、シートの背もたれにしがみつくようにして、それを眺めていました。その頭を拳骨でこつんと叩く冴子さん。
「こら、趣味悪りぃぞミャーコ」
「あうっ。いたーいっ! サエちゃんがぶったぁ〜」
「やかましいっ!」
 ほっとかれた形になったプリシアさんが、おもむろに口を挟みます。
「説明を続行するべきか?」
「あっ、ごめんごめん。えっと、コンピュータ疑似なんとかって……」
「疑似インタフェースシステム。人間と同じ形を取ることにより、コミュニケーションを取りやすくすることを目的としている」
「それにしちゃいまいちのデキだな」
 腕を頭の後ろに回しながら感想を言う冴子さん。
「そーゆーことならミャーコちゃんにお任せっ」
 ミャーコさんが、待ってましたっていう感じで、ぴょんと顔を出しました。
「このミャーコさんにプログラムを改良させてくれれば、もっとコミュニケーション取りやすくしたげるよ〜」
 プリシアさんは答えます。
「コミュニケーションサブルーチンの追加および変更には艦長の承認が必要」
「真奈美ちゃぁん、お願ぁ〜い」
 ミャーコさん、今度は艦長席にすり寄ってます。でも、それを聞いて、慌てて冴子さんと菜織ちゃんも駆け寄ります。
「ダメっ!」
「そうだ、真奈美っ! そんなこと許すなっ!!」
「なんでぇ? ミャーコちゃんが、とぉっても親しみやすいキャラクターにしてあげようとおもったのにぃ」
「ミャーコがもう一人増えてみろっ! とんでもねぇことになるだろうがっ!」
「それは言えてる」
 怒鳴る冴子さんに、腕組みしてうんうんと頷く菜織ちゃん。
「ううっ、2人ともひどぉい。ミャーコちゃん泣いちゃうぞ。しくしく」
「泣き真似すんなっ! うっとぉしい」
「……ミャーコさん」
 少し考えていた真奈美ちゃんが、腕組みしていた腕を解いて、ミャーコさんに話しかけました。
「その作業にどれくらいかかる?」
「えーっとね」
 けろっとした顔で答えるミャーコさん。やっぱり嘘泣きだったみたいです。
「……5時間くらいかな〜」
「助手が一人着くとしたら?」
「それならぁ……3時間」
「わかったわ。乃絵美ちゃん、ミャーコさんを手伝って。コンピュータ、コミュニケーションサブルーチンの変更を、艦長として許可します」
「承認」
 プリシアさんは頷きました。
 ミャーコさんは腕まくりしました。
「さぁってと。それじゃのえのえ、手伝ってね〜」
「あっ、はい」
 頷く私の耳に、菜織ちゃんが囁きました。
「乃絵美、ちゃんとミャーコを見張っててね。プリシアがミャーコみたいにならないように」
「えっと、私、そんなこと……」
 できません、と言いかけた私の肩が、後ろからぽんっと叩かれました。
「乃絵美なら出来る。な?」
 お、お兄ちゃん!?
「う、うんっ。私頑張るねっ」
 私は頷いて、立ち上がりました。
「ミャーコさんっ、やりましょうっ!」
「の、のえのえやる気だね〜。ミャーコ負けそ……」

「おわったぴょん」
 ラボからブリッジに入ると、ミャーコさんはそう言って、通信士シートに滑り込みました。
「ミャーコっ、てめ、変なルーチン仕込まなかっただろうなっ!」
 シートの背もたれに手をかけて、後ろから声を掛ける冴子さん。
 ミャーコさんはくるっと振り返りました。あ、ちょっとうるうるしてますね。
「ううっ、信楽美弥子、16年とちょっと生きてきて初めて思い通りにさせてもらえなかったよぉ」
「そっかぁ♪ よぉし、よくやったぞ乃絵美っ!」
 冴子さんは振り返って私を誉めてくれました。
「ぶーっ、サエちゃんの意地悪〜」
「まぁまぁ。乃絵美ちゃん、起動してもいいの?」
 真奈美ちゃんに聞かれて、私は自分の席に着きながら頷きました。
「あ、はい」
「それじゃ。コホン」
 咳払いすると、真奈美ちゃんは言いました。
「プリシア、再起動」
 ふわりと光が集まると、プリシアさんが姿を現しました。私たちをくるりと見回すと、ぺこりと頭を下げます。
「いらっしゃいませ。本日は“セント・エルシア”をご利用いただき、まことにありがとうございま〜す」
「……あ、あの、どうでしょう?」
 私は、おそるおそる尋ねました。
 あ。みんな、目が点になってます。
 ……やっぱり、接客用プログラムを組み込んだのはまずかったでしょうか。
「ご、ごめんなさい。すぐに元に戻します。……すん」
 悲しくなって、消去ボタンを押そうとした私の手が、上から押さえられました。
 びっくりして顔を上げると、お兄ちゃんでした。
「お兄ちゃん」
「消す必要なんてないよ。なぁ、みんな」
「そうだな、ミャーコがもう一人いることに比べりゃ、どうってことないって」
「うん、私も悪くないと思う。ね、菜織ちゃん」
「そうね。うん、乃絵美らしくていいんじゃない?」
 みんな笑顔で頷いてくれました。
「……ふーんだ。ミャーコちゃんのプログラムの方が良かったのに……。まぁ悪くはないけどぉ……」
 あ、一人、まだ膨れてますけど。
 最後にお兄ちゃんは、ぽんと私の頭に手を乗せてくれました。
「ほら、乃絵美は笑顔の方が似合うって」
「お、お兄ちゃん……」
 恥ずかしいです。
 と、プリシアさんがこっちに歩み寄ってきました。
「こんにちわ、伊藤副長。それとも、副長、とお呼びしましょうか? それとも伊藤さん、正樹さん、どれがいいですか?」
「えっと、正樹さんいてぇっ!!」
 答えかけたお兄ちゃんが、後ろから殴られました。振り返ると、菜織ちゃんがモップを構えてました。
「なんですってぇ?」
「……訂正。副長と呼んでくれ」
「了解しました。……お大事に」
 最後にくすっと笑って付け加えるプリシアさん。
 お兄ちゃんと菜織ちゃんは、顔を見合わせました。それをよそに、プリシアさんは私に話しかけてきました。
「そちらが、伊藤乃絵美准尉……。いえ、乃絵美ちゃん、でいい?」
 よかった。認識プログラムの例外ルーチン、ちゃんと動いてる。
「はい、それでかまいません」
 私は立ち上がって頷きました。
「それでは、これからよろしくお願いします」
 そう言って右手を差し出すプリシアさん。
「あっ、はい」
 反射的に右手を握りました。……あ、あれ?
 ホログラムなのに……。
「手が、握れるんですね……。それに、暖かい……」
「はい。最新鋭ですから」
 にっこり笑うプリシアさん。
「これから、よろしくお願いしますね」

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あとがき
 スタートレックはいいよね(笑)

 それはさておき、セントエルシアの8話です。今後重要な存在になる“セント・エルシア”のコンピュータ3人娘のうち、まずはプリシアです。もちろん元ネタはあれ(笑)
 しかし、ちょっとしたエピソードだったはずが……<プリシア登場エピソード
 ま、いっか(笑)

 それにしても、このシリーズって人気ないんだよねぇ(泣)
 個人的には気に入ってるのでちょっと悲しい今日このごろです。

 宇宙戦艦セント・エルシア その8 00/11/5 Up 00/11/6 Update

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