喫茶店『Mute』へ  目次に戻る  前回に戻る  末尾へ  次回へ続く

宇宙戦艦セント・エルシア その9
 

 私達は、作戦室に集まっていました。
「乃絵美ちゃん、“セント・エルシア”の修理状況は?」
 真奈美ちゃんに聞かれて、私はデータパッドに出ている表示を読みました。
「あ、はい。ええと、プリシアさんが自動修復装置をフル稼働させてくれましたから、現在のところかなり改善してます。ただ、資材不足のため、外部装甲は70%の修復で限界です」
「エンジン出力は85%まで回復したわ」
「武器システムは、まあ問題なし」
 菜織ちゃんと冴子さんが続いて報告します。真奈美ちゃんは頷いて、ミャーコさんの方に顔を向けます。
「ミャーコさん、本部との連絡は?」
「だめだぴょん」
 肩をすくめるミャーコさん。
「どうやら、敵さんが大量に通信妨害物質を散布したらしくって、ぜんっぜん通信が届かないんだ〜。さすがのミャーコちゃんもお手上げって感じ」
「あ、あの、レーダーの有効範囲も、かなり狭くなってます」
 私も付け加えました。
「狭いって、どれくらい?」
「あっ、はい。大体1光秒で限界です」
「1光秒っつーと、30万キロかぁ。確かにちょっと狭いなぁ」
 冴子さんが腕組みします。
 真奈美ちゃんが言いました。
「とにかく、“セント・エルシア”は地球に向かう。それでいいかな?」
「ああ。っていうか、他にどうしようもないしね」
 お兄ちゃんが頷きました。
「それじゃ、解散」
「あ、ちょっと待ってくれ」
 お兄ちゃんは真奈美ちゃんに声を掛けました。
「え? どうしたの、正樹くん?」
「これは乃絵美からの提案なんだが、俺の実家が喫茶店をやっていたっていうのは、みんなも知ってるだろ? で、この“セント・エルシア”には厨房込みの食堂がある。今まではそれどころじゃなかったから、みんなも非常用携帯食料食べてたわけだけど、少し落ち着いたわけだから、この食堂を使えるようにしたいんだ」
「あ、なるほど。おじさんやおばさんも腕を振るえるってわけね」
 菜織ちゃんは頷くと、真奈美ちゃんに向き直りました。
「真奈美、あたしからもお願い」
 真奈美ちゃんは少し考えてから、中空に向かって声をかけます。
「プリシアさん、食料の備蓄状態は?」
 ふわり、と光が集まって、プリシアさんが姿を現しました。
「現在の乗員数から換算すると、2ヶ月分の食料が保存してありますよ。基本的には瞬間冷凍保存(フリーズドライ)なので、痛んだりしているものはないです」
「わかったわ。品目名はリストにして乃絵美ちゃんに渡しておいて」
「えっ?」
 急に声を掛けられてびっくりした顔の私に、真奈美ちゃんは笑顔で言いました。
「乃絵美ちゃん、あなたを艦長権限で、“セント・エルシア”の食堂の管理者に任命します。美味しいお料理、お願いするわね」
「あっ、はい」
 私は慌てて頷きました。
「が、頑張りますっ」
「乃絵美の料理は天下一品だから、期待してくれていいぜ」
「おっ、お兄ちゃんっ!」
 かぁっとほっぺたが熱くなって、私は慌てて振り返りました。
 ミャーコさんが笑います。
「学校で、いっつも聞かされてたもんね〜。乃絵美の料理が食いてぇって」
「ミ、ミャーコちゃんっ!」
「にゃはははっ」
 笑いながら部屋を逃げ出していくミャーコさんと、それを追いかけていくお兄ちゃん。
 ……お兄ちゃん、私の料理を覚えててくれたんだ……。
 ぽーっとしてそれを見送っていると、不意に菜織ちゃんに肩を叩かれました。
「さって、それじゃ食堂に行ってみよっか」
「あっ、はい」
 私は慌ててこくこくと頷きました。
 お兄ちゃんに、美味しいもの、食べてもらわなくちゃ。
 よぉし。
「行こっ、菜織ちゃんっ」
「お、やる気だね。それじゃ……」
「あっ、私も手伝おうか……?」
「いらない」
「あう……」
 話しかけてきた真奈美ちゃんににべもなく言う菜織ちゃん。
 真奈美ちゃん、がくっと肩を落として壁をつついています。
「いいわよいいわよ。どうせ私はミャンマーの破壊神よ……」
「あ、あの、真奈美ちゃ……」
「いいのいいの。行くわよ乃絵美っ!」
 話しかけようとした私の口を後ろから押さえて、菜織ちゃんはそのまま作戦室から私を連れだしました。

 私と菜織ちゃんは、足早に廊下を歩いて食堂に向かっていました。
「でも、さっきの真奈美ちゃん、ちょっと可哀想……」
「いいのよ。真奈美に手伝わせたら、食堂が永久封鎖になるのは間違いないんだから。乃絵美だって覚えてるでしょ? 正樹が2週間入院したときのこと」
 覚えてます。
 でも、あの時は、お兄ちゃんは確か落ちてたものを拾って食べたんじゃ……。
「もしかして乃絵美、あの時の正樹の説明真に受けてるんじゃないでしょうね?」
「えっ、違うんですか?」
「……乃絵美って、いい子ね」
 ……誉められてるんでしょうか?
 菜織ちゃんは向き直りました。
「いい? あの時はね……」
『菜織ちゃん、乃絵美ちゃん、すぐにブリッジに来てっ!』
 急に真奈美ちゃんの声が聞こえました。菜織ちゃんは怪訝そうな顔をして、訊ねます。
「菜織だけど、何かあったの?」
 後でプリシアさんに教えてもらったんですけど、お兄ちゃんやほかのみんなが着ている制服には通信機がついていて、どこにいても会話が出来るようになってるんだそうです。
 今も、菜織ちゃんの声はちゃんと真奈美ちゃんに聞こえてたみたいです。すぐに返事が来ました。
『敵の船が見つかったの』
「!」
 私達は顔を見合わせ、来た道を戻っていきました。

 シュン
 ブリッジの扉が開くのももどかしく、私達は中に飛び込みました。
「真奈美、敵の船って!?」
「方位121マーク32。距離2.3光秒だよ」
 ミャーコさんが、私たちの方にぽいっとスクリーンを投げてくれました。
「わっ! ちょ、ちょっとミャーコ、いきなり投げないでよ」
「あはは、ごめんごめん」
 反射的に飛び退いてから、拳を振り上げる菜織ちゃんと、笑って答えるミャーコさんを横目に、私は目の前でピタリと止まったスクリーンから数値を読み取っていました。
 ええと、でも、もっと詳しいデータが欲しいです。そうだ、プリシアさんに聞けば……。
「プリシアさん?」
「……」
 光が集まったかと思うと、プリシアさんが現れました。
「あ、プリシアさん……」
「ごめんね、乃絵美ちゃん。私じゃダメだから、交代するわ。あ、起動シーケンスはこっちでやっといてあげるから。これは、サービスよ」
「……えっ?」
 私が聞き返した時には、もうプリシアさんの姿はかき消すように消えていました。慌てて呼び戻そうとしたとき、さっきと同じように光が集まります。
 一拍置いて、ピンク色のロングヘアの、プリシアさんをぐっと落ち着いた感じにした女の人が、そこには立っていました。
 彼女はぐるりとブリッジを見回してから、一礼しました。
「現状の概略を説明せよ」
「……またかよ、おい」
 冴子さんがうんざりしたように肩をすくめました。それからミャーコさんに訊ねます。
「おい、プリシアとかはお前が改造したんだろ? 元に戻ってんじゃねぇか」
「戻ってないよぉ。だって、あれ、プリシアじゃないもん」
 口を尖らすミャーコさん。
「へ? でもよ……」
 その女の人は冴子さんをじろりと見ると、言いました。
「私は“セント・エルシア”のトリプルメインコンピュータシステムの一人、戦闘戦術担当プログラム。コードネームはウィンディ」
 あ、そういえば……。

「“セント・エルシア”のメインコンピュータシステムは、3本のプログラムから構成。自分と、戦闘戦術に特化したプログラム、そしてバックアップシステムの3本。それぞれコードネームは初期設定でウィンディ、ユーティ。これらも艦長権限で変更可能」

 前にプリシアさん(改造前)がそう言ってました。
 そっか、今は敵が近くにいるから、いつものプリシアさんじゃなくて、このウィンディさんの出番っていうわけなんですね。
 真奈美ちゃんもすぐにそれが判ったみたいです。すっと立ち上がって声を掛けました。
「ウィンディ、艦長権限で、現状を認識するための各種データバンクへのアクセスを許可します」
「……」
 ウィンディさんは、ちらっと真奈美ちゃんを見ると、頷いて目を閉じました。あ、なにか光の粒がきらきら光ながら吸い込まれていきます。
 これって、データを吸収してることを示してるんでしょうか? プリシアさんといい、芸が細かいです。
「……現状を認識」
 しばらくしてから、ウィンディさんはそう言うと、私を見ました。
「伊藤乃絵美准尉、“セント・エルシア”主任コンピュータオペレータ」
「は、はい、私ですっ」
 私が慌てて答えると、ウィンディさんは頷きました。
「声紋パターン認識完了。提案。敵戦力の分析を進言する」
「あ、えっと、お願いします」
「……命令と認識。命令を実行する」
 こくりと頷いて、ウィンディさんは正面に向き直りました。そして振り返ります。
「前方に未確認の物体を確認。最大長223メートルの円筒形。人類のものではない可能性が98%。必要なら、その定義について……」
「あ、推定についての証明は、特別に求められた時以外は省略してくれないかな」
 真奈美ちゃんが口を挟むと、ウィンディさんは頷きました。
「艦長権限により承認。以後、この規定を適用する」
「で、敵なんだな?」
 もうさっさと砲門の照準を合わせた冴子さんが、待ちきれないように聞き返しました。ウィンディさんは頷きます。
「はい」
「よし、それだけ聞けばあとはどうでもいいぜっ! 真奈美、あたしに撃たせろっ!」
「待って」
 真奈美ちゃんは冴子さんを止めると、ウィンディさんに尋ねました。
「こんな近くまで来ても敵に動きが見られないけど、どうしてだと思う?」
 距離2.3光秒。大体70万キロ。宇宙では、すぐ近くと言ってもいい距離です。
 ウィンディさんはすぐに答えました。
「敵船からエネルギー漏れの兆候あり。また、近辺にかなりの数の破片が浮遊している所から見て、72時間以内に、ここで大規模な戦闘が行われた可能性が高く、敵船はおそらくその時に推進システム、通信システム、火器管制システムがダウンしているものと思われる」
「そう……。漂流してる、ってことね……」
 真奈美ちゃんは少し考えると、前に向き直り、言いました。
「敵船を探索します」
「探索!?」
 みんなが一斉に真奈美ちゃんの方を振り返りました。
 真奈美ちゃんはスクリーンを見つめて、静かに言葉を続けました。
「敵を知り、己を知れば、百戦危うからずって言うでしょう? 私達、敵のことは何も知らないわけだし、少しでもチャンスが有れば、情報を集めることも必要でしょう?」
「さんせーっ。さすが真奈美ちゃん、情報の重要性をちゃんと判ってるねっ」
 大きく頷くミャーコさん。
 真奈美ちゃんはミャーコさんに訊ねました。
「ミャーコさん、偵察用のブローブはありますか?」
「残念賞〜っ」
 にゃははと笑うミャーコさん。
「“セント・エルシア”には、偵察用ブローブどころか、移動用シャトルもないんだぴょん」
「……ホント?」
「脱出用ケージならあるけど、あれはそれこそ最後の最後に使う、一度しか使えない脱出カプセルだものね」
 菜織ちゃんもため息混じりに言いました。
 プリシアさんも、同じ事を言ってたから間違いないと思います。
 ……あ。
 私は、ふと思い付いて、ウィンディさんに訊ねました。
「ウィンディさん、“セント・エルシア”に戦闘機は乗ってないですか?」
 そう、いままで誰も、純粋な戦闘用の機体のことは訊ねてなかったんです。……正確に言えば、多分プリシアさんは戦闘用の機体のことは知らなかったんじゃないかと思います。
 ウィンディさんは、表情を変えずに答えました。
「……質問事項は、連合宇宙軍の機密事項に属します。当該情報を参照するためには、α8クリアランスが必要です」
「……なんだって?」
 冴子さんが目をぱちくりさせました。ミャーコさんがにゃははっと笑います。
「サエちゃん知らないんだぁ」
「うるせ、どうせあたいは筋肉バカだよ」
「そ、そんなことないですよ」
 慌てて真奈美ちゃんが冴子さんを慰めてます。
 でも、どうしましょう?
「ミャーコ、あんた情報系は詳しいでしょ? α8クリアランス持ってないの?」
 菜織ちゃんに訊かれて、ミャーコさんはうーっと首を振りました。
「そこらのセキュリティはさっすがに堅くてね〜。このミャーコちゃんでもα10クリアランスが限界だったぴょん」
「だからなんなんだよ、そのあるふぁなんとかって!」
 癇癪を起こしたみたいです。冴子さんは大声で怒鳴りました。思わず身をすくめちゃいます。
「こら冴子っ。乃絵美が怯えるだろっ!」
 そんな私の肩を抱いて、お兄ちゃんが怒ってくれました。
「わ、悪い。でもよ……」
「αクリアランスは、機密情報を扱うときの資格よ。数値が小さくなればなるほど、上級の資格ってわけ。α1クリアランスって言えば連合大統領レベルってことね」
 菜織ちゃんが説明して、冴子さんはため息を付きました。
「それならそういう風に言えってんだ」
「命令の意味不明」
「だぁ〜っ! ミャーコ、乃絵美、こいつなんとかしてくれっ!」
 冴子さんがウィンディさんを指さしてじたばたしました。……ふふ、なんか可愛いです。
 真奈美ちゃんが振り返って、そのウィンディさんに言いました。
「ウィンディさん、当該情報の開示を命じます。承認コード、マナミ・FC01・コード1」
「……承認コード確認。α6クリアランスまでの情報を開示可能」
「えっ?」
 みんな一斉に真奈美ちゃんを見ました。
「や、やだな、みんなどうしたの?」
「……ま、いいわ。それよりどうなの?」
 菜織ちゃんが首を振って、ウィンディさんに向き直りました。

 パシャッ
 天井のライトが、広い格納庫を照らし出しました。
 冴子さんが口笛を吹きます。
「へぇ〜っ、こんなもん、積んでたのかぁ」
 私達の目の前の壁には、大きなロボットが3機ありました。
「ウィンディさん」
 私が声をかけると、ふわり、とウィンディさんが姿を現しました。
「現状の概要を……」
「それはいいから、こいつのこと教えてくれよ」
 ウィンディさんのセリフを遮って、冴子さんが訊ねました。みるからにわくわくしてるみたいです。
 ミャーコさんが肩をすくめました。
「サエちゃんはあいかわらず兵器オタクだね〜」
「へへ〜、ロボットだぜロボット! いやぁ、やっぱり最新鋭戦艦とくれば絶対あると思ってたぜぇ!」
 いつもならすぐに言い返す冴子さん、今回はミャーコさんの言葉なんて右から左に聞き流して、ロボットを見つめています。
「蘭堂重工製汎用人型兵器、型式番号NXX−07Sです。従来通り神経接続での操縦が可能のため、既存戦闘機の訓練を受けていれば操縦可能なうえ、人型なのでAMBACによる機体制御が……」
「んなことどうでもいいって。真奈美、あたしがこれで見に行ってくるぜ」
 今にも操縦席に乗り込みそうな勢いの冴子さんです。
 真奈美ちゃんは少し考えて、菜織ちゃんに訊ねました。
「菜織ちゃん、戦闘機の操縦訓練はみんな受けてるの?」
「え? ええっと、あたしはまだ……。ミャーコもまだ、よね?」
「にゃはは。ほら、あたしはサエちゃんと違って頭脳労働者だから〜」
「俺は受けてるけど……」
 お兄ちゃんが口を挟みました。
 真奈美ちゃんは頷きます。
「うん。それじゃ冴子さんと正樹くん、2人で行ってもらえるかな?」
 ……お兄ちゃんが?
「あ、あの……」
 私は、思わず口を挟んでいました。
「わ、私も、行ってもいいですか……?」
「ええっ!?」
 私は、右手を掲げて見せました。
「神経接続クリスタルなら、私も持ってますし……」
「乃絵美ったら、いつの間に……」
 菜織ちゃんの言葉に、私は慌てて答えました。
「あ、最近はほら、神経接続で動かす機械も増えてきたし、お店の手伝いなんかもこれのほうがはかどるかな……って……」
 そっと、お兄ちゃんの顔を伺います。……怒ってる、かな?
 ……お兄ちゃんに少しでも近づきたくて、軍に入った人はみんな付けてるって聞いて、私も付けてもらったクリスタル。
「……ごめんなさい、お兄ちゃん」
「いや、乃絵美が謝ることじゃないさ。俺が怒ってるのは、乃絵美にこんなことさせた親父やお袋だ。ったく、乃絵美にこんなことさせてまで働かせるなんて……」
「あ、違うの。これは私が……」
「正樹も乃絵美も! いまは伊藤家の家庭内事情をどうこうしてる場合じゃないでしょ?」
 菜織ちゃんに言われて、お兄ちゃんは表情を和らげました。
「ああ、そうだな。でも、乃絵美を連れて行くのは……」
「そうだな。いくら操縦は出来ても、戦闘訓練もしてないようなやつを連れて行くのは、反対だ」
 冴子さんが腕組みして頷きました。
 菜織ちゃんは私を見て、それから真奈美ちゃんに言いました。
「でも、人手は多いに越したことないんでしょ? それに、こっちはロボットに乗ってるわけだし」
「偵察なら、多分がさつなサエちゃんより繊細なのえのえの方が向いてると思うぴょん」
「あんだとてめぇ!」
「あーん、サエちゃんがいじめる〜」
 逃げ回るミャーコさんを追いかける冴子さんをよそに、真奈美ちゃんはお兄ちゃんに声をかけました。
「……正樹くん、私は、乃絵美ちゃんを連れて行った方がいいと思うよ」
「真奈美ちゃんまで……」
 私は、そっとお兄ちゃんの手を握って、顔を覗き込みました。
「お願い。私、お兄ちゃんと一緒にいたいから……」
「……わ、わかった」
 ほっぺたを掻きながら、しぶしぶお兄ちゃんは頷きました。
 よかった。これで、お兄ちゃんと一緒にいられるんだ。
 ……私のいないところで、お兄ちゃんが危険な目に遭うのは、嫌だから。

「重力フィールド安定。格納庫ゲート・オープン」
 ゆっくりと、格納庫の扉が開きました。その向こうに星空が見えます。
 ガシャッ
 青い機体……お兄ちゃんの1号機が、私の機体の肩を掴みました。
「乃絵美、絶対無理はするなよ」
「うん、わかってるよ、お兄ちゃん」
「……やっぱり、乃絵美も残った方が……」
「正樹、いい加減しつこいぞ。それに戦闘に出るわけじゃねぇんだし、いざとなったらあたしだっているだろ?」
 冴子さんの赤い機体、2号機が、そう言いながら私たちの脇をすり抜けて、扉の方に歩いていきました。途中の壁に掛かっていたライフルを片手に取ると、床のカタパルトに足を固定します。
「んじゃ、お先に〜。2号機、田中冴子、準備よーし! 出せっ!」
「んじゃサエちゃん、行ってらっしゃーい」
 ミャーコさんがそう言うと同時に、冴子さんの機体は外に弾き飛ばされて行きました。
 カタパルトが戻ってきます。
「よし、それじゃ次は俺が……」
「次は乃絵美よ。正樹、あんたは最後」
 菜織ちゃんの声が聞こえました。
「あんただって習ったでしょ? 一番危ないのは先頭、次はしんがりだって。乃絵美にしんがりをさせるつもり?」
「わ、わかったよ。それじゃ乃絵美、わかるか? ここに足を載せるんだぞ」
 わざわざマニピュレーターで指さしてくれるお兄ちゃん。優しいです。……嬉しいな。
「ここでいいのかな?」
 判ってるけど、わざわざ確認してみたりして。
「ああ、そこでいいんだ。上手いな、乃絵美」
 お兄ちゃんに誉めてもらって、私は嬉しくなってしまいました。
「えっと……、3号機、伊藤乃絵美、……お願いします」
「んじゃ、行っくよぉ〜ん」
 がぁーーっ
 次の瞬間、私の身体がシートに押しつけられたかと思うと、機体は宇宙空間に飛び出していました。

 メニューに戻る  目次に戻る  前回に戻る  先頭へ  次回へ続く

あとがき
 やっぱ、ロボットでしょう!(笑)
 いや、GPMやってるからどうとかとかそう言う理由はないんですが。
 てゆうかGPM止まってるし(苦笑) どうも戦闘が苦手で(苦笑)

 さて、セントエルシアですが、どうもこれはこれで説明がやたら多くなってしまいます。
 ……説明がやたら多いのは「颱風娘」も同じなんですが。
 う〜、まだまだ先は長いというのに……。
 なんとか今世紀中には終わらせたいものですが。

 宇宙戦艦セント・エルシア その9 00/1/14 Up

お名前を教えてください

あなたのEメールアドレスを教えてください

採点(10段階評価で、10が最高です) 1 10
よろしければ感想をお願いします

 空欄があれば送信しない
 送信内容のコピーを表示
 内容確認画面を出さないで送信する